第十二章・第七話「踏み込む言葉」
夕焼けが次第に濃さを増していく中、俺たちはしばらく、無言のまま並んで座っていた。遠くで、子供を呼ぶ親の声がかすかに響き、それが途切れると、あたりは静かな夕暮れの気配だけに包まれる。
「――ねえ、蒼くん」
沈黙を破ったのは、莉世だった。
「何だ」
「もし、これから先、もっと危険なことが起きたとしても……私のこと、ちゃんと頼ってくれる?」
その問いかけには、これまでにない真剣さが込められていた。普段の、どこか達観したような口調とは違う、まっすぐな響きだった。俺は少し考えてから、静かに答えた。
「正直、まだ難しいと思うこともある。誰かを巻き込むのが、怖いんだ」
「うん、それは分かってる」
「でも――」
俺は、言葉を続けた。澪の一件、莉世自身が黒鴉に狙われたこと。その記憶が、まだ胸の中に重く残っている。
「莉世がいてくれるおかげで、救われてる部分も、確かにある」
その言葉に、莉世は一瞬息を呑んだ後、ゆっくりと頬を赤らめた。
「……そういうこと、不意打ちで言わないでよ」
「悪い。素直に思ったことを言っただけだ」
「蒼くんの、そういう不器用なところ、嫌いじゃないよ」
莉世はそう言って、小さく笑った。その笑顔を見ながら、俺は自分の中に、これまで以上にはっきりとした感情が芽生えているのを自覚していた。
(この気持ちは……)
まだ、名前をつけるには早いかもしれない。だが、莉世の存在が、俺にとって特別なものになりつつあることだけは、もう疑いようがなかった。誰かにこんな風に心を開くのは、いつぶりだろうかと、ふと考えてしまう。
「蒼くん?」
「ああ、悪い。考え事してた」
「なに考えてたの?」
「……それは、秘密だ」
俺がそう言うと、莉世は少し不満げに頬を膨らませたが、それ以上追及してくることはなかった。代わりに、どこか満足げに小さく息を吐いて、ベンチの背もたれに体を預ける。
「ねえ、蒼くん」
「何だ」
「羽鳥先輩のこと、気をつけてね。何か分かったら、すぐに私にも教えて」
「ああ、約束する」
沈みゆく夕日を背に、二人の間に流れる空気は、これまでよりもずっと、温かいものに変わっていた。遠くの街灯が、ぽつぽつと灯り始める頃、俺たちはようやく、腰を上げて帰路についた。
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