第十二章・第六話「並んで歩く」
羽鳥に関する調査が進む一方、俺の日常にも、静かな変化が訪れていた。
「今日、少し時間ある?」
放課後、莉世からそう声をかけられたのは、珍しいことだった。これまでは、何か用事があってもグループチャットで連絡してくることが多かったのに、今日は直接、教室まで訪ねてきたのだ。周囲の生徒たちが、ちらちらとこちらを窺っているのにも、莉世は特に気にする様子もなかった。
「ああ、特に予定はない」
「じゃあ、少し付き合ってくれる?」
莉世に連れられて向かったのは、学校からほど近い公園だった。夕暮れ時の柔らかな光が、遊歩道を優しく照らしている。平日のこの時間、公園には人影もまばらで、子供たちの遠い笑い声だけが、風に乗って聞こえてきた。
「どうしたんだ、急に」
「別に、理由とかないよ。ただ、蒼くんと、ゆっくり話したいなって思っただけ」
莉世はそう言いながら、少し恥ずかしそうに視線を逸らした。その様子に、俺は内心で妙な落ち着かなさを覚える。
二人でベンチに腰掛け、しばらく他愛のない会話を続けた。学校のこと、ダンジョンのこと、澪や悠斗たちのこと。特別な話題があるわけではなかったが、その時間は、不思議と心地よかった。夕日に照らされた遊具の影が、少しずつ長く伸びていくのを、俺たちはなんとなく眺めていた。
「――最近、羽鳥先輩のこと、気にしてるんでしょ」
不意に、莉世がそう切り出した。俺は少し驚きながらも、素直に頷いた。
「ああ。確証はまだないが、黒鴉と何か関係があるかもしれない」
「大丈夫?無理してない?」
「分からない。ただ、放っておけない」
俺がそう答えると、莉世は少し考えるような間を置いてから、静かに続けた。
「一人で抱え込まないでね。私も、できる限り力になりたいから」
その言葉に、俺は思わず莉世の方を見た。夕焼けに照らされたその横顔は、これまで以上に、まっすぐで温かいものに感じられた。短い前髪の隙間から覗く瞳に、揺るぎない真剣さが宿っている。
「ありがとう」
「どういたしまして」
莉世は小さく笑うと、少しだけ、俺の方に体を寄せた。肩が触れそうなほどの距離。その近さに、俺は思わず鼓動が速まるのを感じていた。
「寒くないか」
「ううん、平気。むしろ、このくらいの気温、好きだよ」
莉世はそう言いながら、空を見上げた。茜色から次第に藍色へと移り変わっていく空を、二人でしばらく、黙って眺め続けていた。
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