第十二章・第五話「差し伸べられた手」
水無瀬蒼という名前を知ってから、羽鳥――玲は、独自にダンジョン攻略に力を入れるようになっていた。
(力をつければ、いつか奴に辿り着ける)
そんな一心で、玲は危険な階層にも臆せず挑むようになっていった。周囲が止めるのも聞かず、放課後になると一人でダンジョンへ向かう日々。その甲斐もあって、気づけば校内でも噂になるほどの実力者になっていた。
だが、どれだけ力をつけても、兄が失ったものが戻ってくるわけではない。攻略の成果を積み上げるたびに、玲の心にはむしろ、より深い虚しさが募っていった。強くなることと、兄を救うことは、決して同じ意味ではなかったからだ。
虚しさを抱えたまま攻略を続けていた、ある日のことだった。
「――随分と、無茶な潜り方をするんだな」
ダンジョンの奥、一人で上位モンスターに挑んでいた玲に、声をかけてきた人物がいた。
「あんたは……」
「名乗るほどの者じゃないさ。ただ、お前のその実力、もったいないと思ってね」
物腰の柔らかい、だがどこか底知れない雰囲気を纏った男だった。年齢は、三十代半ばほどだろうか。着ている装備は決して派手ではないが、全身から滲み出る佇まいに、玲は本能的な警戒を覚えた。
「何が目的だ」
「目的、というほどのものでもない。ただ――お前と同じように、この世界の『理不尽』に、思うところがある者同士、話してみたいと思っただけさ」
理不尽、という言葉に、玲は思わず反応してしまった。
「理不尽……?」
「ああ。努力を重ねてきた者が、たった一人のわがままで、すべてを奪われる。そんな理不尽が、まかり通っていいはずがない」
男の言葉は、まるで玲の心の奥底を見透かしているかのようだった。
「お前も、そう思ってるんじゃないか。『ラストクリアラー』とやらに」
その一言に、玲は思わず息を呑んだ。誰にも語ったことのない、心の奥底にしまい込んでいたはずの感情を、初対面の相手にあっさりと言い当てられた驚きと、同時に湧き上がる、奇妙な安堵があった。
「……なぜ、それを」
「噂は、色々耳に入ってくるものでね」
男は薄く笑うと、懐から一枚の名刺のようなものを取り出した。そこには、組織名も肩書きもない、簡潔な連絡先だけが記されている。
「もし、その理不尽を正したいと思うなら――いつでも、連絡をくれ」
男はそう言い残すと、闇の中へと姿を消していった。玲はしばらくその場に立ち尽くしたまま、手の中の紙切れを、じっと見つめ続けていた。
誰にも理解されないと思っていた兄への想いと、晴らしようのない恨み。それを、初めて肯定してくれた相手。玲の中で、その存在は、気づけば大きな意味を持ち始めていた。
――それが、玲が『黒鴉』という組織と接点を持つことになった、最初の出来事だった。
【作者からのお願い】
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
「アステリズム・オンラインの続きが気になる!」
「蒼のこれからの無双に期待!」
と少しでも思っていただけたら、画面下部にある
【ブックマーク登録】 と 【評価(☆☆☆☆☆を★★★★★に!)】
で応援していただけると、執筆のモチベーションが劇的に上がります!
皆様のポチッと一押しが、この物語の何よりの支えになります。よろしくお願いいたします!




