第十二章・第一話「疑念の共有」
翌日の放課後、俺は本条のカフェでクロウと向かい合っていた。閉店後の店内には、コーヒーの香りと、どこか張り詰めた空気が漂っている。
「それで、気になることって?」
クロウに促され、俺は昨日の出来事を、順を追って話し始めた。羽鳥との何気ない立ち話、そこで交わされた言葉の端々、そして――あの写真の人物に感じた、微かな既視感。
「体格とか、歩き方の癖とか、そういう細かいところが、何となく重なって見えたんです。決定的な証拠には、程遠いんですが」
「羽鳥、か」
クロウは腕を組み、しばらく黙って考え込んだ。テーブルの上に広げられた、あの粗い画質の写真データに、もう一度視線を落とす。
「正直、根拠としては弱い。体格の印象が被った、ってだけじゃ、断定はできないな」
「分かってます。ただ、気になって」
「お前がそう感じたなら、無視するのもどうかと思う。直感ってのは、意外と馬鹿にできないもんだ。少し、調べてみるか」
クロウはそう言うと、スマホを取り出し、素早く何かを検索し始めた。
「羽鳥……ね。苗字、フルネームは分かるか?」
「いえ、名字しか。二年の先輩で、校内では『羽鳥先輩』って呼ばれてます」
「学年と、大体の特徴は?」
「二年で、ダンジョン中層をソロ攻略したって噂になってた人です。背は俺より少し高くて、人懐っこい感じの話し方をします。ただ――」
「ただ?」
「時々、その人懐っこさの奥に、何か別のものが見える気がするんです。うまく言葉にできないんですが」
俺のその言葉に、クロウは一瞬、鋭い視線をこちらに向けた。
「お前がそこまで言うなら、尚更、無視できないな」
クロウは頷きながら、メモアプリに素早く情報を打ち込んでいく。
「分かった。学校関係なら、本条の伝手でも多少探れるかもしれない」
カウンターの奥で、グラスを拭いていた本条が顔を上げた。
「任せとけ。生徒の情報まで探るのは、さすがに限度があるが、できる範囲でやってみる」
「お願いします」
俺は小さく頭を下げた。胸の奥には、拭いきれない緊張感が渦巻いている。もし、本当に羽鳥が黒鴉と関係しているのなら――その先に、何が待っているのか。想像するだけで、背筋に冷たいものが走った。
「焦るな」
俺の様子を察したのか、クロウが静かに声をかけてくる。
「確証もないまま、相手に揺さぶりをかけるのは悪手だ。こっちはこっちで、着実に裏を取っていく」
「分かりました」
俺は頷きながら、テーブルの上の写真データを、もう一度じっと見つめた。まだ、何も確証はない。だが、動き出すべき時が近づいていることだけは、確かに感じていた。
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