第十章・第二十二話「幹部との決着」
「……くそ、こんなはずじゃ」
後ずさりながら、男が腰の得物を抜いた。だが、その手は明らかに震えている。
「『封印の呪符』が効かなくなった以上、お前に勝ち目はない」
淡々と告げながら、一歩、また一歩と距離を詰めた。
「調子に乗るなよ、小僧が……!」
咆哮のような声を上げ、男が斬りかかってくる。その一撃を、体を僅かに捻るだけで完全に見切った。
紙一重で刃をかわし、そのまま懐へと踏み込む。左の剣で、男の得物を下から弾き上げた。
「なっ――」
バランスを崩した男の体が、宙で無防備に晒される。右の剣を振り上げ――そこで、寸前で刃を止めた。
刃先が、男の首筋のわずか数センチ手前で静止する。
「……終わりだ」
低く、そう告げる。だが、その声には、これまでにないほどの昏い感情が滲んでいた。
(こいつが、澪を……莉世たちを)
脳裏に、澪の悲痛な声、莉世と亜衣の怯えた表情がよぎる。抑えていたはずの怒りが、腹の底から一気に噴き上がってきた。
(このまま、殺して――)
剣を握る手に、無意識に力がこもる。
「――蒼!」
鋭い声が、その瞬間を切り裂いた。
「やめろ!それ以上はやるな!」
振り返ると、息を切らしたクロウが、工場の入口から駆け込んでくるところだった。
「クロウ……さん」
「殺しちゃ駄目だ。お前がそっち側に堕ちることだけは、絶対に駄目だ」
クロウの真剣な声に、我に返る。剣を握る手から、少しずつ力が抜けていった。
――そうだ。ここで、この男を殺してしまえば、二度と後戻りできなくなる。
深く息を吐き、剣を引いた。男は腰を抜かしたまま、その場に崩れ落ちる。
「クロウさんの、言う通りですね」
「ああ。よく踏みとどまった」
安堵したように、クロウが肩の力を抜く。もう一度男を見下ろすと、静かに双剣を鞘へと収めた。
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