第十章・第二十一話「解放」
体を縛っていた重さが消えた瞬間、世界の解像度が一段階上がったような感覚があった。
息遣い、埃の舞う空気、床のひび割れ、敵の重心――そのすべてが、これまでにないほど鮮明に感じ取れる。
「――行くぞ」
そう呟くと、地を蹴った。
最初に反応した構成員が、慌てて武器を構える。だが、遅い。一瞬で懐へ潜り込み、鞘に収めたままの左剣で鳩尾を打ち抜いた。
「がはっ……!」
声にならない声を上げて、男が崩れ落ちる。振り返る暇もなく、そのまま右へ跳んだ。
二人目が横薙ぎの一撃を放ってくる。それを最小限の動きで屈んで躱すと、下から掬い上げるように右の刃を振り抜いた。
「――ぐあっ!」
武器が宙を舞い、男は膝から崩れ落ちる。息をつく間もなく、三人目、四人目が同時に襲いかかってきた。
「甘い」
双剣を交差させ、二本の刃を同時に薙ぐ。左の刃が一人の脇腹を捉え、右の刃がもう一人の得物を弾き飛ばす。二人はほぼ同時に、力なく地面へと崩れ落ちていった。
「な、なんだこいつ……さっきまでと、全然違う……!」
恐怖に震える残った構成員の声。俺は止まらなかった。
五人目が距離を取ろうと後退する。だが、足は既にその男の間合いへと踏み込んでいた。速度を乗せた突きが、得物ごと男を弾き飛ばす。
「や、やめ――」
その哀願を最後まで聞くことなく、流れるように次の相手へと矛先を移した。
六人目、七人目。次々と迫る敵を、一切の無駄なく、一撃、また一撃と沈めていく。もはや、誰一人として、まともに俺の動きを目で追えていなかった。
「化け物か、お前は……!」
最後の一人が、悲鳴に近い声で叫ぶ。それに答える代わりに、静かに双剣を構え直す。
この場に立っているのは、もう俺と、あの男――黒鴉の幹部だけだった。
コメント・フォローよろしくお願いします
コメント・フォローがくると頑張れます^_^




