第十章・第十六話「取引の提案」
「単刀直入に言おう」
薄暗い廃工場の中、青年が三人を見下ろしながら告げた。
「お前たち三人の身柄を、うちの息がかかった売買組織に引き渡す。その代わり――水無瀬蒼には、二度と手を出さないと約束しよう」
その意味を理解した瞬間、莉世と亜衣の顔から血の気が引いた。
「そんな……」
「な、なに言ってるんですか……!」
声を震わせる亜衣。動じる様子もなく、青年は言葉を続けた。
「お前たちが姿を消せば、あいつも少しは大人しくなるだろう。それに――お前たちの身柄自体にも、それなりの価値がある。一石二鳥、というやつだ」
その非情な言い草に、莉世は思わず拳を握りしめた。
「ふざけないで。そんな取引、誰が――」
「誰が、乗ると思う?」
そこで、青年の視線が澪に向けられる。
「例えば――お前が一人、大人しく付いてくるなら、他の二人は解放してやってもいい」
その提案に、澪は思わず息を呑んだ。
「澪ちゃん、駄目、そんなの聞かなくていい」
慌てて澪の腕を掴む莉世。だが、澪の瞳には、すでに何か決意めいた色が浮かんでいた。
(お兄ちゃんに、迷惑をかけたのは私だ)
自分が余計な行動を起こしたせいで、莉世と亜衣まで巻き込んでしまった。その事実が、澪の胸に重くのしかかっていた。
「……分かりました」
震える声で、澪がそう呟く。
「澪ちゃん!」
「駄目だよ、そんなの絶対!」
悲鳴のような声を上げる莉世と亜衣。だが、澪は静かに首を振った。
「二人を、巻き込みたくない。私が、行きます」
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