第十章・第十一話「否定と距離」
「澪、最近元気ないけど、何かあったか」
夕食の後片付けをしながら、俺は思い切って切り出した。ここ数日、澪の様子が明らかにおかしいことには気づいていた。
「……別に、何もないよ」
「そうか?無理してないか」
「してない。大丈夫だから」
澪はそう言って、目を合わせないまま、食器をシンクに運んでいった。その態度に、俺は嫌な予感を覚えた。
「――なあ、澪」
俺はもう一歩踏み込むことにした。
「もしかして、この前の話のこと、気にしてるのか」
その言葉に、澪の肩がぴくりと揺れた。図星だったのだと、俺は直感的に悟った。
「……別に」
「隠さなくていい。ちゃんと話してくれ」
俺がそう言うと、澪はしばらく黙り込んだ後、ようやく小さな声で口を開いた。
「……お兄ちゃんは、私のこと、信頼してなかったの?」
予想外の問いに、俺は思わず言葉を失った。
「そんなわけないだろ」
「でも、あんな大事なこと、ずっと黙ってた。莉世さんたちには話してたのに、私には……」
澪の声が、震えを帯びていく。
「それは、澪を危険に巻き込みたくなかったからだ。信頼してないとか、そういう話じゃない」
「そうやって、また私だけ、守られる側にされる」
澪の言葉には、思いのほか強い響きがあった。俺はその剣幕に、思わず一歩たじろいでしまう。
「澪、それは違う――」
「もう、いい」
澪はそう言うと、俺の言葉を遮るように、リビングを後にしてしまった。俺はその背中を、ただ茫然と見送ることしかできなかった。
それから数日、澪は俺との会話を、明らかに避けるようになった。必要最低限のやり取りはあるものの、以前のような他愛のない会話は、すっかり影を潜めてしまっていた。
(どうすれば、いいんだ)
俺は、この状況をどう立て直せばいいのか、答えを見つけられずにいた。
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