第十章・第八話「澪の回想・あの日」
――澪がまだ、小学校高学年だった頃のことだ。
ある日、両親から告げられた一言が、澪の日常を一変させた。
「今日から、蒼くんと一緒に暮らすことになるから」
それだけの説明で紹介されたのが、当時中学生だった蒼だった。
蒼の両親は、事故で亡くなっていた。身寄りのなかった蒼を、遠縁にあたる澪の家族が引き取ることになった――それが、澪が後になって知った事情のすべてだった。
(お兄さん、できるんだ)
最初にそう聞かされた時、澪は素直に喜んだ。だが、実際に一緒に暮らし始めた蒼は、想像していたような「お兄さん」ではなかった。
「……よろしく」
それだけ言うと、蒼はすぐに自室に引きこもってしまう。食事の席でも、必要最低限の会話しかしない。両親がどれだけ話しかけても、返ってくるのは短い相槌ばかりだった。
(血、繋がってないから、仕方ないのかな)
澪は子供心に、そんな風に納得しようとしていた。だが、内心では、どこか寂しさを拭えずにいた。せっかく「お兄さん」ができたと思ったのに、目の前にいるのは、心を閉ざした一人の少年だった。
当時の蒼が、どんな思いを抱えていたのか。それを澪が理解するまでには、まだ長い時間が必要だった。
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