第十章・第七話「静かな夜」
家に戻ってからも、澪はしばらく震えが止まらない様子だった。
「大丈夫か」
「うん……大丈夫、だと思う」
リビングのソファに座らせ、俺は温かい飲み物を用意した。澪はそれを両手で包み込むように持ちながら、俯いたまま黙り込んでいた。
「お兄ちゃんは……なんで、あんなに強いの」
不意に、澪がぽつりと呟いた。
「今の、普通の高校生じゃないよね。あの動き」
俺は一瞬、言葉に詰まった。ここまで来て、誤魔化すのはもう限界だと悟る。
「……澪、大事な話がある」
「うん」
「実は、俺――」
俺は、これまでのことを、できる限り分かりやすく澪に話した。ゲームのラストクリア、現実への反映、正体を隠していた理由、そして黒鴉という組織の存在。澪は黙って、最後まで話を聞いていた。
「……そう、だったんだ」
話を聞き終えた澪は、しばらく黙り込んだ後、小さくそう呟いた。
「怖くないか、こんな話」
「怖い、けど……」
澪は少し考えるように間を置いてから、続けた。
「お兄ちゃんが、ずっと一人でそんなこと抱えてたんだって思ったら、それの方が、なんか辛い」
その言葉に、俺は思わず胸を突かれた。
「心配、かけたな」
「うん。もう、隠さないでね」
澪はそう言うと、ようやく少し表情を緩めた。俺はその様子に安堵しながら、妹の頭を軽く撫でた。
「ああ、約束する」
その夜、俺たちは久しぶりに、遅くまでリビングで話し込んだ。だが――このやり取りが、後になって思わぬ形で澪の心を揺さぶることになるとは、この時の俺は、まだ知る由もなかった。
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