第四章「ダンジョンへ」
あの日、4人のグループチャットを作ってから莉世は蒼の声を聞くたびに、あの夜の記憶と重ね合わせていた。グループチャットの通話に紛れ込む相槌、四人で集まったときの何気ない一言――どれも重ねてしまうが、決定的な確証には至らない。
(フードの人はもっと低い声だった気がする……でも、緊張してたから、そう聞こえただけかもしれない)
考えれば考えるほど、記憶は曖昧になっていく。亜衣に相談しても、「直節聞いてみればいいじゃん」と笑われるだけで、莉世自身、それをする勇気はまだなかった。
そんなとき、思いがけない話が持ち上がった。
「なあ、今度ダンジョン行ってみよーぜ」
昼休み、悠斗が唐突にそう言い出した。
「は?」
「いや、俺、ダンジョン未経験じゃん。最近ニュースとかでよく見るし、一回くらい見てみたくてさ。お前、ゲームやってたから多少詳しいだろ?」
俺は苦笑した。悠斗はまさか俺があの「フードの男」だとは思っていない。単に「ゲームをやっていたから多少詳しい」程度の認識だろう。
「未経験で行くのは危ないと思うけど」
「だから頼んでんだよ。あ、そうだ――亜衣たちも誘ってみるか」
放課後、四人のグループチャットに、悠斗がメッセージを送った。
『今度みんなでダンジョン行かない?俺と亜衣は未経験だから、莉世と蒼、付き添ってくれると助かる』
既読はすぐについた。返信をしてきたのは莉世だった。
『未経験の二人だけで行くのはやめた方がいい』
『だから頼んでるんだって。四人でなら、浅い階層くらいなら平気だろ?』
少し間があって、莉世からの続きのメッセージが届く。
『……蒼くんは?』
その一文に、俺は一瞬だけ言葉に詰まった。だが、ここで不自然に断る理由もない。
『浅い階層なら、問題ないと思う』
『なら、私も行く。悠斗くんと亜衣だけじゃ心配だし』
こうして、四人でダンジョンへ向かうでのプランが決まった。俺は正体がばれないよう立ち回る必要があることに、密かな緊張を覚えていた。
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同じ頃、クロウは一人、繁華街の裏路地を歩いていた。
「――で、状況は?」
「相変わらずだよ」
答えたのは、カフェのオーナーである本条。かつてクロウと同じクランに所属していた古参プレイヤーだ。
「『黒鴉』の動きが、ここ最近また活発になってる。末端の連中を締め上げても、上の方の情報が全然出てこない」
「組織か」
「ああ。おそらく、ゲーム時代の知識を悪用してる奴が上にいる。それも、かなり上位のプレイヤーだった可能性が高い」
クロウは腕を組み、路地の先を見つめながら。
「蒼にこのことは?」
「まだ話してない。あいつには、まず日常を過ごさせてやりたい」
「甘いな、お前は」
本条がわずかに口の端を上げる。
「だが、その甘さがなけりゃ、俺たちも今頃どうなってたか分からんしな。手は貸すよ。情報が入り次第、また連絡する」
「頼む」
クロウはそう言って、路地を後にした。彼の脳裏には、まだ蒼にも語っていない懸念があった。『黒鴉』の中枢に関わっているとされる人物――ゲーム時代、蒼に対して強い負の感情を抱いていた、とあるプレイヤーの存在だ。
その人物が今、この現実でどこにいるのか。
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その頃、蒼が通う高校のとある教室では、一人の生徒が窓の外を眺めていた。
ただ、その視線の先には、悠斗と並んで下校していく蒼の姿があった。
――もっとも、それが誰なのか、そしてどんな感情を抱いているのかは、今はまだ、物語の奥に静かに沈んだままである。
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