第三章「再会と違和感」
クロウから連絡が来たのは、莉世の書き込みから二日後のことだった。
『久しぶりだな。ちょっと話したいことがあるんだが、時間あるか?』
ゲーム内チャットの延長で今も繋がっているメッセージアプリに、そんな一文が届く。俺――蒼は、少し身構えながら返信した。
『大丈夫です。何かありました?』
『会って話す。前に紹介したカフェ、覚えてるか?』
覚えている。クロウのゲーム時代のクランメンバーの一人がオーナーをやっている店だ。以前にも何度か顔を出したことがあった。
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放課後、指定された時間にカフェへ向かうと、奥の席にクロウの姿があった。相変わらず、どこか飄々とした空気を纏っている。
「よう、久しぶりだな」
「お久しぶりです」
向かいに腰を下ろすと、クロウはニヤリと笑ってスマホの画面をこちらに向けてきた。表示されていたのは、あの掲示板のスレッドだった。
「これ、お前だろ」
――やはり、この話か。
「……何のことだか」
「隠すなよ。黒ベースに金銀の装飾、双剣使い。お前以外に該当者いないだろ」
言い逃れできる状況ではなかった。俺は小さくため息をついて、フードの下で表情を歪めた。
「……はい、俺です」
「だと思った」クロウは満足げに頷く。「助けた子、お前のこと探してるみたいだぞ。心当たりのある方は情報をくださいってさ」
「探されてる、って……」
まさか、あの程度のことで詮索されるとは思っていなかった。俺は無意識に眉根が寄る。
「お礼が言いたいだけだろうけどな。まあ、お前は昔からそういうところ変わらないな。人助けはするくせに、名乗りもせず立ち去るところとか」
「別に、名乗る必要ないでしょう」
「相変わらずだなぁ、お前は」
クロウは楽しそうに笑いながら、コーヒーを一口飲んだ。俺はその様子に、かすかな居心地の悪さを覚えながらも、どこかで安堵していた。ゲームが終わり、世界が変わっても、こうして軽口を叩き合える相手が残っていることに。
「まあ、あんまり大事にすんなよ。目立ちすぎると、面倒なことに巻き込まれるぞ」
「分かってます」
短く答える。クロウの言葉には、いつも通りの茶化した口調の奥に、わずかな真剣さが滲んでいた。
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その日の放課後、俺は悠斗と一緒に駅前の商店街をぶらついていた。特に目的があるわけではない、いつも通りの時間の潰し方だ。
「なあ蒼、今度の連休さ――」
悠斗の言葉が、不意に止まった。
「どうした?」
「いや、あそこ……」
悠斗の視線の先を追うと、見覚えのある金髪の少女が立っていた。隣には、ショートヘアの快活そうな女子生徒。二人とも、こちらに気づいて驚いた表情を浮かべている。
「悠斗くん、久しぶり!」
声を上げたのは、ショートヘアの少女――莉世の親友、亜衣だった。どうやら悠斗の知り合いらしい。
「亜衣!お前もこの辺来るんだな」
「莉世と買い物してて。ね、莉世」
名前を呼ばれた莉世が、小さく頷く。俺はその顔を、フードなしで初めてはっきりと見た。ダンジョンで見たときよりも、表情が柔らかい。だが、こちらを見る目には、どこか探るような色があった。
「せっかくだし、みんなで少し遊んでいかない?」
亜衣の提案に、悠斗が乗り気な様子で頷く。莉世は少し躊躇う素振りを見せたが、結局は流れに任せることにしたようだった。
俺たちは特に予定もないまま、四人でゲームセンターやカフェを回りながら、放課後の時間を共にすることになった。
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夜、莉世は自室のベッドに寝転がりながら、亜衣に通話をかけていた。
「――今日の蒼くんって子、悠斗くんの親友なんだね」
「そうそう、いい子だよ。ちょっと素っ気ないけど」
「素っ気ない、か」
莉世はその言葉を反芻しながら、ふと今日の会話の一場面を思い出していた。ゲームセンターで、誰かとぶつかりそうになった悠斗をとっさに引き止めたときの、蒼の低い声。
――「危ない」
たった一言。だが、その声のトーンと間の取り方に、莉世は妙な既視感を覚えていた。
(似てる……気がする)
あの夜、フードの奥から聞こえた声。素っ気なくて、でもどこか気遣うような響き。今日聞いた蒼の声と、どこか重なる部分がある気がしてならなかった。
「莉世?聞いてる?」
「あ、ごめん。聞いてる」
「どうしたの、ぼーっとして」
「ううん、何でもない」
莉世は誤魔化すように答えたが、内心のモヤモヤは晴れなかった。確証があるわけではない。声が似ている、というだけの、あまりに曖昧な感覚だ。
それでも、一度気になり始めると、頭から離れてくれない。
(考えすぎ、かな……)
通話を終えた後も、莉世はしばらく天井を見つめたまま、その違和感を持て余していた。
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