第十章・第四話「澪の午後」
時間は少し遡る。
その日、澪は友人と別れた後、いつもの通学路を一人で歩いていた。塾の帰り、日はすでに落ちかけている。
(今日は早く帰ろっと)
そんなことを考えながら歩いていると、不意に、路地の陰から人影が現れた。
「――澪ちゃん、だよね」
聞き覚えのある声に、澪は思わず足を止めた。以前、書店で声をかけてきた、あの青年だった。
「あ……この前の」
「奇遇だね、また会えるとは思わなかったよ」
軽い調子でそう言う青年だったが、その目の奥には、以前とは違う色が浮かんでいるように見えた。澪は本能的な警戒を感じ、後ずさった。
「あの、私、急いでるので……」
「そう言わずに、少し付き合ってよ」
青年がそう言うと同時に、背後にもう一人、別の人影が立っているのに気づいた。逃げ場を塞ぐような立ち位置に、澪の背筋が凍りつく。
「な、なに……」
「怖がらなくて大丈夫。ちょっと、蒼くんに関係することで、力を貸してほしいだけだから」
青年がゆっくりと距離を詰めてくる。澪は反射的に、鞄を強く抱きしめながら後ずさった。
「い、嫌です……!」
声を上げようとした瞬間、背後の人影が素早く動き、澪の腕を掴もうとした。
「――だ、誰か……!」
澪が声を振り絞ったその時だった。
「――離れろ」
低く鋭い声が、路地に響いた。
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