第十章・第三話「繋がらない電話」
カフェを出た頃には、外はすっかり暗くなっていた。
スマホを取り出すと、時刻はもう夜の七時を回っている。澪はいつも、夕食までには帰ってくる。今日は特に、遅くなる予定があるとは聞いていなかった。
「――そういえば」
ふと、胸の奥に小さな引っかかりを覚えた。念のため、俺は澪にメッセージを送ってみることにした。
『今どこにいる?夕飯、何時ごろになりそうか教えてくれ』
既読はつかない。
最初は、大したことではないと思っていた。友達と買い物でもしていて、スマホを鞄の奥にしまい込んでいるだけかもしれない。そう自分に言い聞かせながら、俺は帰路を急いだ。
だが、家に着いても、澪の姿はなかった。
「……澪?」
誰もいない玄関に向かって呼びかけても、返事はない。俺はもう一度スマホを確認したが、既読はやはりついていなかった。
次第に、胸の奥がざわつき始める。
(いつもなら、この時間には帰ってるはずだ)
俺は澪の友人関係を思い浮かべながら、心当たりのある連絡先に片っ端から連絡を入れ始めた。だが、誰からも「一緒にいる」という返事は返ってこない。
最後の望みをかけて、澪が最近やり取りしていたという亜衣にも連絡を入れる。
『澪、今日は何も予定ないはずだよ。何かあった?』
その返信を見た瞬間、俺の中で警戒が一気に膨れ上がった。
(まさか……)
脳裏に、あの怪しい男から渡されたという連絡先の紙切れがよぎる。俺は震える手でスマホを握りしめながら、最悪の可能性を振り払うように、玄関の扉を勢いよく開けた。
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