第九章・第五話「亜衣への接触」
莉世から連絡があったのは、その日の夜のことだった。
『さっき、変な人に声かけられた。蒼くんのこと聞かれて……』
メッセージを読みながら、亜衣は思わず眉をひそめた。
『大丈夫?怪我とかしてない?』
『うん、平気。でも、なんか嫌な感じだった』
やり取りを終えた後も、どこか落ち着かない気持ちを抱えたまま、亜衣はその夜を過ごした。
そして翌日――今度は、亜衣自身がその「何か」に遭遇することになった。
学校からの帰り道、いつもと変わらない通学路を歩いていると、不意に背後から声をかけられる。
「すみません、少しいいですか」
振り返ると、莉世が話していた特徴と同じ、穏やかな雰囲気の男が立っていた。
(この人が……)
反射的に警戒心が強まる。莉世からの話を聞いていたおかげで、心構えだけはできていた。
「水無瀬蒼さんの、ご友人ですよね」
「……何のご用でしょうか」
努めて冷静に答える。
「いえ、少し彼のことを伺いたくて。装備のこととか、交友関係とか」
「それ、莉世にも聞いたんですよね」
亜衣がそう指摘すると、男はわずかに笑みを深めた。
「ご存知でしたか。それは話が早い」
「答える気はありません」
きっぱりとそう言い切り、男から視線を逸らさないまま、一歩後ずさる。
「そうですか。まあ、いいでしょう」
あっさりと引き下がった男は、軽く一礼すると、そのまま雑踏に紛れて姿を消した。しばらくその場に立ち尽くした後、震える手でスマホを取り出し、亜衣は莉世にメッセージを送った。
『私にも、同じ人来た』
既読はすぐについた。少しの間の後、莉世からの返信が届く。
『やっぱり……。これ、蒼くんに伝えた方がいいと思う』
『うん。私もそう思う』
二人のやり取りには、これまでにない緊張感が滲んでいた。
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