第九章・第二話「羽鳥先輩」
その人物と初めて顔を合わせたのは、ただの偶然。
放課後、悠斗と別れて一人昇降口へ、下駄箱の前で、見知らぬ先輩に声をかけられた。
「――お前、一年の水無瀬だろ?」
振り返ると、涼しげな目元をした男子生徒が立っている。特別目立つ容姿ではないが、どこか掴みどころのない、不思議な空気を纏っていた。
「そうですけど……」
「ああ、いや。悪い、いきなり」
軽く笑いながら、男子生徒が手を挙げる。
「羽鳥って言うんだ。二年の」
その名前に、思わず身構えた。ここ最近校内で噂になっていた「羽鳥先輩」――ダンジョン中層をソロ攻略したという、あの人物だ。
「噂は聞いてます。すごい成果を出したとか」
「大したことじゃないよ。まぐれみたいなもんだ」
軽く肩をすくめながら、羽鳥はそう言った。だが、その物言いにはどこか見下しているように感じられる。
「お前も、ダンジョン結構詳しいんだって?」
「……まあ、多少は」
「へえ。今度、機会があったら情報交換でもしないか?同じ学校のよしみでさ」
人懐っこい笑みを浮かべる羽鳥に、言葉を選びながら答えた。
「気が向いたら」
「素っ気ないなぁ。まあ、いいさ」
ひらひらと手を振ると、羽鳥はそのまま昇降口を出ていった。その背中をしばらく見送りながら、言葉にできない違和感を覚えていた。
(何だ、今の……)
敵意があるようには見えなかった。だが、あの人懐っこい笑顔の奥に、何か別のものが潜んでいるような、そんな気配を感じずにはいられなかった。
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