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第九章・第一話「凪の日常」
羽鳥先輩の話題が学校を賑わせてから、二週間が経っていた。
初めの方こそ校内のあちこちで囁かれていたその噂も、時間が経つと次第に落ち着きを見せる。人の噂も七十五日とはよく言ったものだ。今では廊下ですれ違う生徒たちの話題も、すっかりいつも通りのものに戻っていた。
「なあ蒼、今度の中間、ヤバくね?」
「お前が勉強してないだけだろ」
「手厳しいなぁ」
悠斗と軽口を交わしながら、教科書を鞄に詰め込む。あの一件以来、莉世たちとの関係も、落ち着いた日常の中に溶け込みつつあった。グループチャットのやり取りも、ダンジョン攻略の相談より、他愛のない雑談の方が明らかに多くなっている。
黒鴉の動きも、あれから表立った接触はない。クロウたちが情報を集めているとは聞いているが、俺自身の生活には、これといった変化は感じられずにいた。
(このまま、何事もなければいいけどな)
そんなことを思いながら、教室を後にする。
だが――そんな凪のような日常が、実はもう静かに崩れ始めていることに、この時の俺はまだ気づいていなかった。
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