八章・第九話「本条の回想・小さな声」
クラン内の不和が最も深刻だった頃、本条はある一人のプレイヤーからのメッセージを受け取った。
『クランの件、外から見てて思ったんですけど』
差出人は、当時まだ無名だった一プレイヤー――蒼だった。クラン員ですらない、ただクロウを通じて多少の面識があるだけの相手からの、唐突な連絡だった。
『本条さん、全部自分の責任にしすぎだと思います』
その一文に、本条は思わず目を見開いた。
『不正行為したのは、他のメンバーです。本条さんが謝る必要、そこまでないと思います。ちゃんと、線引きして対応した方がいいですよ』
淡々とした、そっけない文面だった。だが、その言葉には、本条が欲しかった「冷静な視点」が確かに含まれていた。
「……ありがとう。少し、頭が冷えたよ」
『別に、大したことじゃないです。ただ、見てて危なっかしかったので』
その後、本条は蒼の助言を参考に、問題のあったメンバーへの対応を明確化し、クラン内の不和を段階的に収束させていった。結果として、クラン『黎明』は解散を免れ、本条自身も、必要以上に自分を責める癖を見直すきっかけを得ることができた。
「あの時、蒼に声をかけてもらえなかったら……俺は、たぶん潰れてたと思う」
カフェの椅子に座ったまま、本条は静かにそう語った。クロウは黙って頷いている。
「クロウと同じだよ。俺も、あいつに借りがあるんだ。だから――今回のことも、放っておけない」
「奇遇だな。俺も全く同じ気持ちだ」
二人は顔を見合わせ、どちらからともなく、小さく笑った。
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