第八章・第六話「クロウの回想・あの日の借り」
クロウが今も忘れられない出来事がある。
あれは、クロウが仕事で大きな失敗をし、心身ともに限界に近かった時期のことだった。現実で溜め込んだ鬱憤を、ゲームの中で発散しようと、無茶な高難度ソロクエストに挑んでいた。
結果は、当然のように失敗に終わった。
パーティを組まず、装備も万全ではない状態で挑んだそのクエストで、クロウは格上のモンスターに追い詰められ、なす術もなく体力を削られていった。
「――クソ、こんなところで」
半ば投げやりな気持ちで、クロウは画面を見つめていた。現実の疲れも相まって、心のどこかで「もう、どうでもいいか」と思っていたのかもしれない。
その時だった。
「クロウさん、下がって!」
聞き慣れた声とともに、蒼が戦場に割り込んできた。瞬く間にモンスターの猛攻を捌き、あっという間に形勢を逆転させていく。
「な、なんでここに……」
「クロウさんの様子、おかしかったんで。心配になって追いかけてきました」
蒼はそっけない口調でそう言うと、モンスターを完全に沈めた後、こちらに向き直った。
「何かあったんですか」
「……別に、大したことじゃない」
クロウは思わず、蒼がよく使う言葉をそのまま真似て返してしまった。だが、その空虚な強がりを、蒼は見抜いていたのだろう。
「無理しないでください。ゲームの中でくらい、格好つけなくていいですから」
その一言に、クロウは思わず、画面の前で言葉を失った。
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