第八章・第三話「情報屋の店」
夜も更けた頃、クロウは本条のカフェの裏口を叩いていた。
「よっ、こんな時間に悪いな」
「構わんよ。どうせ閉店作業してただけだ」
本条はそう言いながら、クロウを店の奥へと招き入れる。営業を終えたカフェの店内は、昼間の柔らかい雰囲気とは打って変わって、どこか張り詰めた空気が漂っていた。
「で、進展はあったのか」
本条がコーヒーを二つ淹れながら尋ねる。クロウは椅子に腰掛け、小さく息を吐いた。
「黒鴉の末端、何人か締め上げた。だが、上の情報はやっぱり出てこない。ただ――」
「ただ?」
「奴らの動き、明らかに蒼を狙ってる。今回のダンジョンの一件も、偶然じゃない。上位個体を意図的に誘導してた形跡がある」
本条の表情が、僅かに険しくなった。
「本格的に目をつけられた、、、ってことか」
「ああ。しかも、狙いは蒼本人だけじゃない。周りの人間関係まで調べてる気配がある」
「莉世って子か、、、」
「それも含めてな」
クロウはコーヒーを一口飲み、椅子の背もたれに体を預けた。
「正直、想定より早い。もう少し猶予があると思ってたんだが」
「お前らしくないな、こんな弱気な言い方」
本条がからかうように言うと、クロウは苦笑した。
「弱気じゃない。ただ――蒼のことになると、どうにも冷静でいられなくてな」
「まあ、それも分かるよ」
本条は静かにそう答えると、自分のコーヒーカップに視線を落とした。その表情には、クロウと同じような、複雑な感情が浮かんでいた。
「なあ、クロウ。今更だが、聞いていいか」
「何だ」
「お前が、あそこまで蒼に肩入れするのは……あの時のことが、まだ引っかかってるからか」
その問いに、クロウは一瞬、言葉を詰まらせた。
「……お前もだろう、本条」
「まあな」
本条は小さく笑って、それ以上は何も言わなかった。だが、二人の間には、まだ誰にも語られていない、共通の過去があることだけは確かだった。
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