第八章・第二話「狙われる理由」
「あの、一つよろしいでしょうか」
部下の声に、男は振り返らないまま頷いた。
「なぜ、そこまで彼に固執されるのですか。実力者は、他にも、、、」
「ラストクリアラーだからだ」
男は即答した。
「ラストを独りで突破した人間は、後にも先にも彼しかいない。運営が最後に用意した"贈り物"――その恩恵を最も強く受けているのは、間違いなくあの男だ」
「では、実力目当てで……」
「それだけじゃない」
男は薄く笑った。
「あの男が、俺たちの理念に賛同するか、あるいは敵に回るか。それによって、この先の展開が大きく変わる。仲間になれば、これ以上ない戦力だ。だが、敵に回るなら――早いうちに、その芽を摘んでおく必要がある」
「排除、ということですか」
「まだ結論は出していない。まずは、揺さぶりをかける。今日のダンジョンの一件も、その一環だ」
男は窓の外を眺めながら、静かに続けた。
「奴の周りにいる人間関係も、少しずつ調べさせている。友人、そして――あの少女もな」
「莉世、という娘ですか」
「そうだ。大事なものがあれば、人は揺らぐ。それを利用しない手はない」
男の声には、感情の起伏がほとんど感じられなかった。ただ、淡々と、計算されたゲームの駒を動かすかのような口調だった。
「引き続き、情報を集めろ。焦る必要はない。時間は、俺たちの味方だ」
「はっ」
部下が一礼して部屋を出ていく。男は一人残り、暗闇の中で静かに目を閉じた。
その脳裏には、まだ誰も知らない、彼自身の過去の記憶が過っていた。
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