第八章・第一話「黒鴉の理念」
繁華街の地下、明かりも碌に届かない一室で、その男は静かに椅子に腰掛けていた。
「――報告は」
「はっ。例のダンジョンで、目標の実力を再確認しました。噂通り、いえ、それ以上の腕前かと」
跪いた部下の報告に、男は小さく笑みを浮かべた。
「やはりな。ラストクリアラーは伊達じゃない」
男の名は、表向きには知られていない。ゲーム時代、限られた者しか知らなかったハンドルネームだけが、今も彼を彼たらしめていた。
「なあ、お前は分かるか。あのゲームが、なぜ現実に反映されたと思う?」
「……運営の、気まぐれでは」
「違うな」
男は緩やかに首を振った。
「あれは、選ばれた者への"贈り物"だ。何百時間、何千時間とゲームに人生を捧げた者たちへの、正当な報酬。この世界は、もはやゲームと変わらない。強い者が上に立ち、弱い者はその下で生きる。至極、単純な話だ」
「では、目標を仲間に……?」
「いや」
男は椅子から立ち上がり、部屋の奥にある薄暗い窓へと歩み寄った。
「あれほどの実力者を、ただの駒にはできない。俺たちの"理念"を、正しく理解してもらう必要がある」
「理念、、、ですか」
「この現実世界はは、既にゲームの延長にある。ならば、力を持つ者が世界を作り替えて何が悪い。俺たちは、そのための礎を築いているに過ぎない」
男の声には、揺るぎない確信が滲んでいた。部下は、それ以上は何も問わず、ただ深く頭を垂れた。
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