第七章(中編・三)「莉世の帰り道」
蒼と別れた後、莉世は一人、電車に揺られながら、今日一日を思い返していた。
(不器用、なんて言っちゃったな……)
口をついて出た言葉を思い出し、莉世は小さく苦笑した。だが、撤回するつもりはなかった。本当にそう思ったのだから、仕方がない。
装備を選ぶ間、真剣な顔で刃の状態を確かめていた蒼。カフェで「大したことじゃない」と繰り返す、素っ気ない口調。だが、その端々に、確かな優しさが滲んでいるのを、莉世は感じ取っていた。
(ずっと、一人で抱えてきたんだろうな)
正体を隠しながら、独りでダンジョンを攻略し続けてきた蒼の姿を思うと、胸の奥が僅かに疼く。誰にも頼らず、誰にも甘えず、それでも困っている人には手を差し伸べる――そんな不器用な優しさに、莉世は知らず知らずのうちに惹かれ始めていた。
スマホを取り出し、送ったメッセージへの返信を確認する。
『いつでも』
たった四文字の返信に、莉世は思わず口元が緩むのを止められなかった。
(素っ気ないくせに、こういうところは分かりやすいんだから)
莉世は小さく笑いながら、窓の外に流れる景色を眺めた。
この気持ちに、まだ名前をつけるつもりはなかった。だが、少しずつ、確かに育ち始めているものがあることに、莉世自身も気づき始めていた。
(もっと、知りたいな。蒼くんのこと)
その想いを胸に抱えたまま、莉世は帰路についた。
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