第六章・第六話「一人の部屋で」
カフェを出た後、悠斗の提案で蒼に送ってもらう形になり、莉世は自室に戻ってからも、どこか落ち着かない気持ちを持て余していた。
ベッドに腰掛け、天井を見上げる。今日一日の出来事が、頭の中を何度も巡っていた。
(ありがとう、って言った時――ちょっとだけ、照れてたな)
素っ気ない口調の奥に見えた、僅かな気恥ずかしさ。莉世はそれを思い出して、自分の口元が緩んでいることに気づき、慌てて表情を引き締めた。
(別に、そういうんじゃ……)
誰に言い訳しているのかも分からないまま、莉世は小さく首を振った。
スマートフォンを手に取ると、亜衣からのメッセージが届いていた。
『今日は色々あったね!また今度、ちゃんと話そ』
莉世は少し考えてから、短く返信した。
『うん、また今度』
それだけ送って、莉世は再びベッドに寝転がった。
(蒼くん、か)
名前を頭の中で呟いてみる。そっけない態度の裏に、確かな優しさと強さを持った人物。今日知ったばかりの素顔が、莉世の中で少しずつ像を結び始めていた。
(もう少し、知りたい)
その気持ちは、まだ小さな灯火のようなものだった。だが、確かにそこにあった。
莉世は目を閉じながら、今日という日を、何度も反芻していた。
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