第六章・第五話「莉世の内側」
カフェの窓際の席で、莉世は蒼の話を聞きながら、表面上は落ち着いた顔を保っていた。
(本当に、あの人だったんだ……)
驚きは、もう通り過ぎていた。今、莉世の中にあるのは、もっと静かな感情だった。
あの夜、フードの奥から聞こえた声。素っ気なくて、でも確かに助けてくれた、あの手。ずっと探し続けていた相手が、こんなにも近くにいたという事実に、莉世はどこか落ち着かない気持ちになっていた。
「――莉世?」
悠斗に呼びかけられて、莉世は我に返った。
「あ、ごめん。ぼーっとしてた」
「大丈夫かよ」
「うん、平気」
莉世はそう答えながら、ちらりと蒼の横顔を盗み見た。淡々と事情を語る様子は、あの夜の素っ気なさと、確かに重なっている。
(この人は、多分――ずっとこうやって、一人で抱え込んできたんだろうな)
莉世は、そんな風に思った。誰にも頼らず、正体も隠して、独りでダンジョンを攻略し続けてきた蒼の姿を想像すると、胸の奥が僅かに疼くのを感じた。
それは、同情とも違う。もっと別の――名前のつけにくい感情だった。
「――莉世は、何か聞きたいことないのか?」
悠斗に水を向けられ、莉世は一瞬迷ってから、小さく首を振った。
「今は、特にない」
本当は、聞きたいことはたくさんあった。だが、今この場で全部を聞き出すのは、何か違う気がした。
(もう少し、知りたい。この人のこと)
莉世は、そんな自分の気持ちに、まだ気づかないふりをしていた。
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