第六章・第二話「ありがとう」
「亜衣は……大丈夫か?」
俺が尋ねると、亜衣は少し戸惑った表情を浮かべながらも、小さく頷いた。
「びっくりはしたけど……蒼くんが莉世を助けてくれたのは事実だし。それに、悠斗くんがそう言うなら、大丈夫だと思う」
悠斗と亜衣の反応に、俺は内心で安堵していた。だが――問題は、まだ何も言葉を発していない、もう一人だった。
「莉世」
俺が名前を呼ぶと、莉世はようやく、ゆっくりと口を開いた。
「……ずっと、探してたのに」
その声には、責めるような響きはなかった。むしろ、拍子抜けしたような、それでいてどこか安堵したような、複雑な色が滲んでいた。
「名乗らなかったのは、悪いと思ってる」
「ううん、いい。そういう理由があったんだろうな、って何となく分かってたから」
莉世はそう言って、小さく息を吐いた。それから、まっすぐに俺を見つめた。
「――ありがとう。あの夜も、今日も」
その一言に、俺は妙な気恥ずかしさを覚えて、思わず視線を逸らした。
「別に、大したことじゃない」
「大したことだよ」
莉世は、そっけない口調のままそう言い切った。だが、その口元には、ほんの僅かに――柔らかい笑みが浮かんでいた。
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