第十五章・第三話「闇の会合」
街外れの古い雑居ビル、その最上階にある一室で、静かな会合が開かれていた。
窓にはすべて厚いカーテンが引かれ、室内には最低限の照明だけが灯されている。円卓を囲むように座っているのは、羽鳥蓮、羽鳥玲の兄弟、そして黒鴉の幹部と思しき数名の男たちだった。
「亜衣という少女への警告は、予定通り完了しました」
幹部の一人が、淡々とした口調で報告する。
「しかし、水無瀬蒼の側も、動きを止める気配はありません。むしろ、調査の速度を上げているようです」
「想定の範囲内だ」
円卓の奥、影の濃い席に座る人物が、静かに口を開いた。その声は、低く落ち着いていて、聞く者に不思議な威圧感を与える。
「この程度で怯むような相手なら、最初から『ラストクリアラー』などとは呼ばれていない」
その言葉に、羽鳥玲は思わず拳を握りしめた。
「次は、どうするつもりですか」
玲が尋ねると、影の人物は、わずかに口元を緩めた。
「焦るな、玲くん。君の気持ちは、よく分かる。だが、こういう物事は、段階を踏んで進めるべきだ」
「しかし――」
「兄である蓮くんのためにも、確実な方法を選ぶ必要がある」
その一言に、蓮が静かに目を伏せた。やつれた顔には、相変わらず、生気の乏しい影が落ちている。
「玲、俺は大丈夫だ。お前が無理をする必要はない」
「兄貴……」
玲は、兄の言葉に、唇を噛みしめた。その優しさが、かえって玲の胸を締め付けた。
「次の一手は、すでに考えてある」
影の人物が、静かに続けた。
「水無瀬蒼の周囲にいる人間のうち、彼にとって最も大切な存在を、直接的に揺さぶる。それも、彼自身が気づいた時には、もう手遅れになっているような形でな」
その言葉に、室内の空気が、一段と冷たいものへと変わっていった。
「詳細は、追って伝える。それまでは、各自、通常の任務を続けてくれ」
会合は、それで締めくくられた。玲は席を立つ間際、一度だけ、影の人物の顔を見ようと視線を向けたが、その表情は、闇の中に完全に溶け込んでいた。
(この人は、本当に信じていいのか)
ふと、玲の胸に、小さな疑念が芽生えた。だが、その疑念を、玲はすぐに振り払った。兄のために、あの男を倒す。それ以外に、選択肢はないのだと、自分に言い聞かせながら。
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