2.突発ダンジョン
香草小鳥型魔獣達を見たからだろうか。
リィンの興味は、すっかり風景から魔獣と精霊に移っていた。
手元のメモには見かけた生き物達のスケッチが所狭しと詰め込まれている。
ちなみに、先ほどの浄化作業は別の紙一面にしっかりと一から十まで書き留めておいた。
「綿毛型精霊と新芽型精霊の背比べ、可愛かったなぁ…!でもでも、花猫型魔獣も可愛かったよね!お腹出して寝てるのはどうかと思ったけど…あ、天敵がいないからなのかも?うん、メモしとこう」
「グゥルール!」
「そうだね、大口鼠型魔獣もいたね。…まさかあの木をまるまる口の中に入れるとは思わなかったけど…やっぱりあの口、夢に出そうだよ…」
「グル…」
見つけた魔獣・精霊の姿を、ソキウスと一緒に思い出す。
どの個体も比較的おおらかで、弱肉強食!!といったヒリつきは感じられなかった。
草原の生き物達は、それぞれ棲み分けができているのだろう。
草原という環境における強者と言えば狼型や猛猫型の魔獣だが、どこにもそれらしい群れは無い。
後は鳥型の魔獣も食物連鎖ピラミッドの高い位置にいるが、空は基本ヘルバアウィス達の領域らしく、今のところ他の鳥型魔獣の姿はなかった。
いや、少し大きい魔獣の姿はあったが…ヘルバアウィスの群れの中にいたので、たぶん系列の上位種だと思うのだ。いわゆるボス格である。
そして、そのヘルバアウィスはおそらく肉食ではない。なにせ、丸芋虫型精霊の横の木の実を迷わず食べていたから。
ちなみに、ラントリイではエールーカがまず食べられている。大雀型魔獣を見かけたらセットだった、なんてよくある話だ。南無三。
「んー、たくさん歩いたね…見てソキウス。セントールの門がもうあんなに小さいよ」
「グゥルルー!」
「そろそろひとやすっ!?」
ひと休みしようか、と繋ぐはずだった台詞は、驚愕に飲み込まれた。
草むらから突然扉が現れ、踏み出した一歩ごと体が持っていかれてしまったのだ。
「あー…やっちゃったなぁ…」
「グゥル?グゥル…」
「大丈夫、大丈夫。怪我はないよ」
前のめりに倒れてしまった体を起こし、膝についた砂を軽く払う。少し擦りむいてしまったが、掠り傷だ。
心配だ心配だとくっついてくるソキウスを好きにさせつつ、リィンはぐるりと辺りを見渡す。
枯れた木々の立ち並ぶ気味の悪い場所だ。空に当たる部分や空間の最果ては、酸化した血のような暗赤色のドロドロが渦巻いている。
「これはやっぱり、ダンジョンに当たっちゃったかなぁ…」
ダンジョンとは、不安定な魔力が一つの場所に溜まることで亜空間を作ってしまう、エルーセ・ウルナ全域で見られる自然現象の事である。
基本的に発生を防ぐ手立てはなく、発生したら最奥の核を壊して消すしかない。
とはいえ、時として中の資源目的や何かの試験場、訓練場として利用する事もあり、わざと核を壊さず残したりもする。なので、まずはギルドに判断を仰ぐものなのだが…
「このダンジョン…入り口が消えちゃうタイプだ…」
「グゥ」
後ろを見てもドロドロがあるだけで、入ってきただろう扉はない。このタイプは途中の脱出口に期待するか、核を壊して出るしかないのだった。
「うぅ…仕方ない。攻略しよう!私達なら大丈夫!」
「グゥ!ルール!」
期せずして、リィンのダンジョン攻略が始まったのである。本当に、ソキウスと契約しておいてよかった。
…
「それにしても、随分荒れたダンジョンだね…なんだか満ちてる魔力もいやーな感じだし…」
遺跡っぽいものを想像していたのでちょっとだけガッカリする。
冒険者に言わせれば遺跡タイプが一番性格悪いから嫌なのだが、彼女は知る由もなかった。
「グ、グルゥ、ルー」
「んー?あ、確かに!ヘルバアウィス達が浄化してた土と似た感じがするね。ソキウスってば天才!」
「グゥ!」
些か緊張感に欠けたやり取りをしつつ、リィンはダンジョンをずんずん進んでいく。
怖気付いたところで仕方ないのだ。
入り口が消えるタイプのダンジョンは外からの入り口も消えるので救援が望めない。
更に、これはどのダンジョンでも共通だが…基本的にダンジョン内の魔力濃度は人間の許容範囲を超えており、準備や対策もなく長居すると体調を崩してやがて死ぬのだ。
酸素をイメージすればだいたい合っている。生きるのに必須でも高濃度だと毒というわけだ。
「グゥ…!」
「…何か来るの?」
ついでに、ダンジョンなので普通に敵がいる。
魔物侵入不可区域でも見つけない限りは止まってなどいられない。
〈※※※※※※※※※!!〉
「あわわわ…コウモリ型!。なら、えっと…!」
【火球】
リィンは持っていた魔石を砕いた。瞬間、ソキウスの口から三発の火球が放たれ、コウモリに似た影がガラスのように砕け消える。
ダンジョンにいる魔獣や精霊は本物ではなく、ダンジョンの魔力が固まってできた偽物だ。生き物ですらない。
この偽物は総じて魔物と呼ばれ、確実に襲いかかってくるので気を付けなくてはならなかった。
「うーソキウス、最高!ナイスコントロール!」
「グルルルゥー」
上機嫌に擦り寄るソキウスの可愛さは天下が取れる。リィンは確信した。
「はぁ…真面目にスクールに通ってて良かった…こんなの知らずに遭遇したら…ひぇ、想像したら怖すぎる!」
「グルルゥ」
「…あ、分かれ道。右か左か…むむむ、よし右!!」
枯れた木の立ち並ぶ道を、時折襲ってくる魔物を倒しながら進む。
枯れているのに立っている木というのはこうも不気味なのだな、とリィンは歩きながらメモにスケッチした。
「うーん…一説には、ダンジョンの景色ってその土地の記憶だって話もあるけど…っ、ソキウス」
「グゥッ!」
ザザ、ザザと枯れ草をかき分ける音がして立ち止まる。
リィン達を囲うように、四体の魔物が現れた。
黒い影はオオカミのような形をしており、赤い目をギラつかせている。
「ひぇ…不気味…っ、で、でも、やらなきゃ!あ、ソキウスって体術は出来る?」
「グル!」
「おぉ、得意そう…なら」
【筋力向上】
リィンが透明な魔石を砕くと、ソキウスの体が赤く輝いた。そして、ただでさえ筋肉質な体がムッと盛り上がる。
ソキウスが地面を蹴り、魔物の一体に肉迫した。
そのスピードはさながら瞬間移動で、魔物は反応すら出来ずに蹴り砕かれる。
そのままソキウスは次の魔物へと跳び、上空から落下の勢いを乗せた拳で頭からかち割った。
残り二体がジリっと後退りする。
(わぁ…ソキウス強い!たぶん、魔法が使えない分鍛えたんだよね。凄いや、本当に)
リィンは流れるように、しかしどっしりと重みのある体術を魅せるソキウスに惚れ惚れした。
ちょっと前…というか昨日死んだ目をしていた魔獣とは思えないほど楽しそうだ。
「っ!ソキウス、左!」
〈※※※※!〉
「ッ!」
「上からも来るよ!」
【火柱】
「グルァ!」
〈※※!?〉
ソキウスから噴き上がった火柱が上から飛び掛ってきた魔物を焼き殺す。
残りの一体は魔法に驚いた隙に自慢の大きな手でパンチをすれば一発だった。
「ソキウスお疲れ様!!もうね、凄く綺麗だった!見惚れちゃったよ!ありがとう!」
「グゥルグルルゥ」
「ん?なぁに?」
リィンを抱き上げ、ソキウスはグリグリと頬ずりをする。
彼女はソキウスをただただ褒めるが、自分があのように戦えるのは間違いなく彼女のおかげだ。
リィンの魔法式は、とにかく丁寧で献身的だった。
ソキウスの使い勝手を最大限考えて描いてくれたのだろうそれは、ほぼノータイムでの魔法行使が出来るほどに馴染むのだから。
あぁ、己の契約者がこんなにも素敵。
期せずして、お互いの思いは重なっていた。
それからもしばらく歩いては襲撃を繰り返し、リィン達は枯れた森の端に辿り着く。そこには下へと口を開けた階段があった。
「うっ…魔力濃いなぁ。もしかしたらボス部屋ってやつなのかも」
「グゥルル…!」
「というか物凄くあの、汚水みたいな香りがする…行きたくないぃ…」
うだうだするリィンだが、ソキウスは長居できないという彼女の言葉をしっかりと覚えていたので、さっと彼女を抱き上げて階段を下っていく。
突然の暴挙にリィンはポカンと目を丸くする他なかった。
そして階段をおりきった先に現れたのは、だだっ広い広場である。枯れた木が観客のようにぐるりと周囲を囲み、いかにもここがフィールドですとばかりにまっさらな平地が中心に広がっていた。
リィンの想像通り、ボス部屋…ダンジョンの最奥である。
ダンジョンの規模は様々だ。
入って目の前が早々にボス部屋な事もあれば、50フロアほど続いたダンジョンもあったというし、フロアという概念が滅茶苦茶な変則ダンジョンもあるとか。
「小ダンジョンで助かったけど…ボス戦は気を付けないとだよね」
「グルルル!」
リィンはソキウスと共にフロアの中央へと警戒しながら歩く。ダンジョンの最奥に出現するボス魔物は、道中の雑兵とは比べ物にならない危険度なのだとか。
思わず足もすくんでしまう。
その、一歩ソキウスと距離が開いた瞬間の事だった。
〈ガウ!!〉
「ひょわっ!?」
「グ!?」
突然一体の魔物が飛び掛ってきたのである。
リィンは咄嗟に身をひねったせいで尻もちをついたが、噛みつかれなかっただけましだろう。…マシとは言え、強かに打ったお尻は痛いけども。
魔物は座り込んだリィンにさらなる追撃を仕掛けようとしたようだが、怒りをあらわにしたソキウスが直ぐ様間に入ってくれた。
〈ガルルルル…!〉
「グゥ"ル"ル"!」
「っつぅ…あれは、砂子犬型精霊?」
若干涙目で立ち上がったリィンは襲撃者を見て眉を寄せ、なるほどと納得する。
今の急襲はどこから?と疑問だったが、おそらく地面にでも隠れていたのだろう。
ダンジョンが魔物として真似ているオリジナル…砂子犬型精霊は、そのような魔法を使えたはずだ。
そう、ダンジョンボスの厄介なところは、オリジナルの魔物や精霊を能力ごと正確に真似てくる…つまり、バンバン魔法を使ってくる事にあった。
「ふぅ…よし。頑張る」
「グゥル!」
「ふふっ、励ましてくれるの?ありがとう…サポートするね」
「グル!」
〈ギャンギャン!〉
邪魔にならないようにとリィンが離れた瞬間、魔物は逃さないとでもいうように飛び掛ってくる。が、ソキウスがそれを防いでくれた。
その隙に、リィンは左手で魔石を弾く。
(ソキウスの体術は使った方が絶対にいい。後は…)
空中で煌めく透明の魔石をリィンは右手で砕いた。
【筋力向上】
砕け散った魔石の煌めきの向こうで、赤い光を纏ったソキウスが魔物を蹴り飛ばす。
二度地面を跳ねた魔物はしかし、地面に潜ろうと黄色い魔法を纏った。
続けてリィンは赤の魔石を跳ねさせ、再度砕く。
【火波】
ソキウスの体から同心円状に発された地面を舐めるような火の波が襲いかかり、魔物が使おうとした地面と一時的に同化する魔法は阻止された。
「よし!タイミングバッチリだね、ソキウス!」
「グゥルル!」
〈ギャン!ガルルルル!〉
「っ、危ない!」
魔法が失敗して腹が立ったのか、今度は赤い魔法のオーラを纏いながら魔物が土の塊を撃ち出してくる。
それも一発や二発ではなく、ダダダダと乱れ撃ちだ。
土散弾の魔法だろう。
リィンは流れ弾に当たらないよう枯れ木を盾に、戦況を見つめた。
ソキウスはさすがの身体能力で土塊を着実に避けていく。
だが、リィンは思わず眉をひそめた。
(…押されてる?)
そう思った瞬間である。ソキウスの肩に魔法が当たり、その体がふっ飛ばされたのは。
「グッ…!?」
「ソキウス!?」
悲鳴に似た叫びが漏れる。
ドッと鈍い音を立て、ソキウスは地面に落ちた。すぐに立ち上がって体勢を整えてはいたが、魔法を受けた肩は痛々しく腫れ上がり、呼吸も荒々しい。
リィンは自分事のように痛む胸を握り、思わず駆け寄ろうとしたが…
「グゥル!ルール!!」
「…っ」
他ならぬソキウスに止められてしまった。
まだやれる。大丈夫だ。奥にチリチリと焔を湛えた四つの金目は、そう如実に伝えてくる。
そもそも、冷静に考えればリィンが戦場に向かっても邪魔以外の何物でもないだろう。逆にソキウスを危険に晒してしまう。
パチンと頬を叩いた。
(しっかり。集中!ソキウスにケガをさせたくないなら、シャンとしなきゃダメなんだから!)
苦労して焦りを飲み下し、彼女は魔物から目を離すことなく思考を回す。
(最初のうち、土塊を避けるソキウスは余裕そうだったよね。魔法の威力だってソキウスを吹っ飛ばせる強さには見えなかった)
しかし、魔法が続いていくうちにそのスピードと威力が上がっていき、対処しきれなくなったソキウスは被弾した。
少なくとも土散弾の魔法に時間経過で威力が増すような特徴はない。
そういう風に魔法式を構築すれば話は別だが、少なくとも魔物が…というより、参考にしているだろうサブルパピィが自身で組み上げるのは非現実的だ。何せ、魔法式の独自構築は魔法回路の代わりに人間に与えられた特権なので。
(だとしたら原因は?)
鼻息荒く、魔物は次の攻撃のタイミングを見計らっているのか、また赤いオーラが体を包み…
(…あ…そうか!不発蓄積だ!)
不発蓄積とは、一定期間自分の魔法や攻撃が相手に当たらなければ当たらないほど能力が上昇していく魔法である。
つまりあの時魔物は、土散弾が外れれば外れるほどに強くなっていたのだ。何とも相性の良いコンボである。
おそらくあの赤いオーラがそうだったのだろう。
ずっと攻撃魔法ばかりに思考を集中させていたせいか、補助魔法が意識から抜け落ちていたのだ。どうにも、視野というのは途端に狭くなるものらしい。
リィンはまた学んだ。
カラクリが分かった以上、あとは対策するだけ。
〈ヴーー、キャン!〉
「また同じ攻撃が来るよ!」
「グゥルー!」
赤いオーラが魔物を包む。当たらなければ強さを増す連続攻撃。避けたら避けた分だけ不利だというのなら…当たってしまえばいのだ。勿論、ソキウスが、ではない。
「一気にいくよ!」
リィンは右手に二つの魔石を乗せ、いっぺんに砕いた。
【火散弾】
【高速移動】
ソキウスから放たれた小さな火の弾丸が、土散弾をすべて撃ち落としていく。
不発蓄積の発動条件は"当たらない"ことだ。相打ちは能力向上へと繋がらない。
火と土の弾丸が飛び交う中、ソキウスは一瞬にして魔物の背後を取った。
そして、見事な踵落としでもってとどめをさしたのである。
…
「ソキウス、大丈夫!?」
「グゥ!グルルー!」
「はぁ…よかった…」
魔物を倒した直後現れた掌大の丸い黒水晶…ダンジョンの核を壊したリィン達は、元の草原に放り出された。
思わずへたり込んだリィンは、覗き込んできたソキウスの怪我を確認し、全力で抱きしめる。
魔獣は高い自己回復能力があるとはいえ、魔法の直撃はかなりのダメージになり得るのだ。
幸い、今回は軽い打撲で済んだが…もし斬り付けるような魔法だったらと思うとゾッとする。
「やっぱり魔物とか、戦うのは怖いなぁ」
「グゥ?グル…」
「違うよ!違う、ソキウスのせいじゃない。私が…甘かっただけ」
魔法が使えるようになったからと、少し油断があった。
例えば剣を持ったらかといって、腕を、使い方を磨かなければ所詮なまくらの棒振りだ。魔法だって変わらない。
(知っているってだけでは全然ダメだ。私は、遠くで参考書を読んでいるような傍観者じゃなくて、きちんとあの場に…ソキウスと同じフィールドに心を置かなくちゃダメなんだ。少しの変化も違和感も見逃さないように…)
「…頑張るね。ソキウス」
「グゥルグル!」
小さくこぼした決意表明に、ソキウスは頬ずりをした。
優しいそれには頑張れという気持ちと、無理しないでという労りが混じっているようで、リィンは気の抜けた笑みを浮かべる。
「さてと!ひと休みするつもりが一騒動だったね。そろそろ移動しようか」
「グゥル!」
「うーん、日没までに森って抜けられるかな…」
「クゥークル」
「あ、やっぱり難しい?早速野宿かぁ…」
「ククゥ」
「じゃあ途中で何か食料、を…って、え???」
立ち上がり、歩き出したのは良い。
迷わずソキウスが横に並んだのも良い。
問題は、ソキウスに話しかけていたつもりなのに…高くて可愛らしい、明らかに違う声が応えていたことである。
リィンはそうっと横に顔を向け、亀の歩みが如く目線を下げていった。
「クゥ、ククルゥ?」
「ど、どちら様!?」
そこには、見たことのある魔獣が、けれどもまったく見たことのない姿で佇んでいたではないか。
「クゥークルゥ!」
「え、えぇ!?長耳手兎型魔獣だよねキミ!?なんだかすごくこう、毒々しい色合いだけど…?」
「クゥーイ」
「照れるとこあった…??」
「グゥ?」
ソキウスとは反対側の隣にピタリと立っていたのは長耳手兎型魔獣…リィンの腰ほどの大きさを持つ二足歩行の可愛らしい魔獣で、小さな羽根のような一対の耳の他、その下に長く垂れ下がった耳をもう一対持っていた。地面にまで届く程長い耳は手と同じく器用に動き、なんなら本体の丸っこい手よりも器用である。
ラントリイにも生息する、エルーセ・ウルナ全域で見られるポピュラーな魔獣の一体…であるはずなのだが。
「クゥーイ?」
「ええと、キミは本当にアウヌスレプスで合ってるのかな??」
「クゥ!」
「合ってるのかぁ…」
本来のアウヌスレプスは、アイドル活動じみた行動をしている個体もいるほど可愛らしさとあざとさ全開で、薄い水色の体色に、淡い桃色でお腹や長耳の先に丸い模様がある。
一方ここにいるアウヌスレプスは体全体が紫色で、長耳の先や手足をペンキの缶にドボンと入れたような、ドロっとした蛍光グリーンの模様があった。
尾にも違いがあり、本来なら風船のようなこちらも可愛らしいものであるはずが、目の前の個体は尾の先に風船ではなく見るだけで寒気がしてくる鋭い針がついている。
方向性の違いがありすぎやしないだろうか。
なんなら表情も、キャピッとした可愛い系ではなくトロンとしたダウナー系である。
「変異種ってやつ、だよね?もはや個体差とかいうものを飛び越えてる気がするし…」
アウヌスレプスはかなりマイペースなのか、困惑するリィンをよそにひくひくと鼻を動かしていた。
そして、何かに納得したように深く頷くと…
「クゥクゥ!」
「えっと…その、私の服を掴んでる手は何でしょうか…」
「クゥーイ、クルゥ!!」
「強い強い強い…!あの…もしかして、付いてこいって言ってる??」
「クゥ!」
分かりやすく首肯を示したアウヌスレプスはリィンの服を離すと、少し進んだ先で手招きをする。
何とも人間っぽさのある魔獣だ。だからこそ容易に想像がつく。
「誰かの契約魔獣だよね…絶対に」
「グル、グールル」
「クゥーク!クゥールゥ!」
「わ、分かった、行くよ!行くからその尻尾こっちに向けないで…!」
余談だが、リィンは注射が大っっっ嫌いである。




