契約
だだっ広いクレイコートの真ん中で、小柄なその人はむんっと腰に手を当てながら膨れていた。
「もう!遅かったわね!待ちくたびれたじゃない!」
実習場というのは、簡単に言えばグラウンドであるらしい。
基本、校舎内で魔法の使用は禁止なのだが、実習場では自由に契約魔獣や精霊を出し、魔法の訓練をしたりコンディションの管理をしたりできるみたいだ。
校舎裏手の第三実習場までの道中、アルスが教えてくれた事である。
他にも、この教室では調理ができるとか、あの温室では珍しい魔植物を栽培してるとか、その階段には亡霊型精霊が出るとか…
寄り道が多かったのは間違いない。
間違いないが、そうさせた当人は任せてくれと言わんばかりの様子なので、リィンはとりあえず口を閉じておく。
「そうは言っても先生、リィンに校舎の説明してませんよね?場所が分からなくて困ってましたよ」
「え、あ、あー…!そうだったわ!じゃあ仕方ないわね。許してあげるわ!」
(わぁ、チョロい…)
いいのだろうか。
少しばかり良心は咎めたが、彼女とて怒られたいわけではない。
せめて心の中でだけはごめんなさいをしておいた。
(それにしても、アルスって…)
「こほん!とにかく、本題に入りましょう。リィンくんを呼んだのは他でもない…あなたのパートナーを決めるためよ!」
「パートナー…?」
「そう!パートナー!相棒ってやつよ!リィンくんって、まだ魔獣や精霊と契約していないって聞いたわ」
「あー…」
「え?…あ、本当だ!?契約紋が無い…!」
リィンは二人の視線の先…右手の甲を左手で擦る。
色白なそこにはいくつか引っ掻き傷や噛み傷の痕があるものの、スベスベで綺麗な肌をしていた。
そう…アルスやガウラのような、独特の幾何学模様一つ無い綺麗な肌である。
「リィンって僕と同い年なんだよね…?今まで魔法無しで生きてきたって事??」
「あはは…そうだね。同じ14歳だよ。ラントリイじゃ魔法が無くてもそこまで困らなかったから…」
アルスはこれでもかと目を丸くし、その奥をどうしようもない好奇心で満たした。
魔法と魔力で目覚ましい発展を遂げているカタルシアにおいて、彼女はどこまでも異質だ。
何せカタルシアでは、早ければ魔力の質が安定し始める3歳前後、遅くとも5歳くらいで契約は済ませてしまうので。
「苦手って事は…」
「それはない!!むしろ魔獣も精霊もすっっっっごく大好き!!」
「そ、そう…だよね。さっき質問攻めされてた時も、魔獣関係の話題に生き生きしてたし…」
「ならどうしてかしら?あ、誤解しないで頂戴。別に責めているわけでも、家庭環境を疑ってるわけでもないの」
「えぇと…」
リィンは困り顔で頬をかく。
別に大層な理由ではないし子供の駄々みたいなものなので、こうも食いつかれると気まずいものがあった。
逡巡の後、少しも目を逸してくれない二人に諦めの息を吐き、リィンは口を開く。
「さっき…ええと、授業の時ガウラ先生も口に出していたと思うんですけど…私、使役って考え方が苦手で…」
ガウラはパチパチと瞬き、己の記憶を少し辿った。
"魔道具より魔法のバリエーションが広がる分、難しい事が多いのが魔獣や精霊の使役よ"
確かにそう口にしていた事を思い出す。
ついポロッと出てしまった台詞だが、だからこそ無意識下でそう思っている事の証明になってしまったわけで…
ただ、ガウラは間違っていない。それはリィンも理解していた。
カタルシアのみならず、エルーセ・ウルナのどの国でも魔獣や精霊との契約には基本的に上下関係を組み込む事になっている。勿論、人間側を上として。
そうでなければ、人間側が契約紋を通して魔力を喰らい尽くされる可能性があるからだ。残念ながら魔獣や精霊も温和な性格ばかりではないので。
契約という枷の中で飼い慣らし、手懐け、支配あるいは隷属、共生を納得させるといった段階を踏むのである。
勿論、皆が皆そんな冷ややかな関係を築く訳では無いし、ガウラが知る中にも例外はいるが。
「私、魔獣や精霊が自由に駆け回って、自由に魔法を使って生きているのを見るのが好きですし、契約魔獣や精霊も野生とは違った顔や仕草をしたり、魅力があるので好きです。でも…いざそこに自分が手を伸ばすとなると…」
「怖いんだ?」
「…うん。魔獣達を見る目が変わっちゃったらって思うと、ね」
アルスはリィンの言葉が少し理解出来た。
例えば、幼い頃憧れていた瞬間的移動魔具。見ているだけだった頃は感動していたし、使い始めた当初も興奮していた。だが、今はどうだろう?
あって当然、動いて当然、何も感じないし、強いて言えば不具合が無くて良かったと現実的な懸念だけ。
リィンが恐れているのはそういう事なのだろう。
「杞憂だと思うけどな。僕も魔獣と契約してるけど、そういう"慣れ"なんて全然ないよ!むしろ、日々発見の連続でさ、より興味がわいてくるんだ」
「うーん、距離が近いからこその発見って事?」
「そういう事」
「ぐっ、それは…ちょっと魅力かも」
ガウラもなんとなく理解し、驚く程に甘い子供だなと肩を竦める。理想論を突き詰めた純真。カタルシアでは鼻で笑われそうな綺麗事だ。
けれども、直向きに魔獣や精霊を尊重しようとする態度は嫌いではなかった。
彼女も使役という形をとってしまってはいるが、自分の契約精霊を我が子よろしく可愛がるタイプなので。
だからだろうか。この子にならと口を開いたのは。
「…ねぇリィンくん。一つ提案があるの」
「提案…ですか?」
ガウラが手元の多機能型通信魔具を弄ると、リィン達の目の前に一つの檻が転送されてきた。
見れば、檻の中に一体の魔獣が大人しく寝そべっている。
リィンは一拍の空白を挟み、分かりやすく興奮に頬を染めた。
「はわわわわ…!見たことの無い魔獣だぁ!燃えるような赤っ、熱いのかな?サラサラ?フワフワ?どんな手触りなんだろう…!顔の鉄仮面が騎士みたいでクールだね!そのスリットから覗く目も…わぁ、金色なんだ!四つもある!綺麗だねぇ!ふむふむ、尻尾は無いけど、背中に棘みたいな…ガラス管?が生えてる…不思議…」
「鉄面袋鼠型魔獣…?この辺じゃ珍しいですね」
「あら、さすがね。…ちょっと、リィンくん、そろそろ落ち着いて」
檻の周りをぐるぐると回りながら止まらない賛辞を垂れ流すリィンを止め、ガウラはコホンと改めて口を開く。
アルスはまだソワソワしているリィンに苦笑した。
「この子、最近保護したの。どうも先天的に欠陥があって…群れから弾かれたみたい」
「っ…」
「あー…よくある話ですね。でも、欠陥って?」
「この子はね、先天的に魔法式を組めない…ようは魔法の設計図を作れない子なのよ」
「「!?」」
ガウラの説明の通り、魔法式とはいわば魔法の設計図である。人間含め、魔獣も精霊も演算領域というものが頭にあり、その演算領域に思い描いた魔法を書き込むのだ。
この紙が指令書として魔法回路に提出されて初めて、魔法というものは作られる。
しかし、指令書がなければご立派な魔法回路があっても魔法は作れない。
つまり…
「この子は、自分で魔法が使えない…?」
「ええ、そういう事。人間とは逆だけど、同じね」
「それじゃあ魔獣の世界では生きていけませんね…」
「そんな…」
「……」
魔獣…マスクロプスは黄金の四つ目に諦念を浮かべ、ため息を吐いた。
その姿があまりにも痛々しくて、リィンはブラウスがシワになる事も厭わずに胸元を握り締める。
「勿論、このまま保護すればこの子は生きられるでしょうね。この、死んだような表情を"生きている"と呼べるなら」
「あはは…生きながらにして死んでいるってやつですね。まぁ、そりゃそうか」
曰く、鉄面袋鼠型魔獣は種族柄、庇護欲がすこぶる高いらしい。
それがただ無力に守られる側など…屈辱も良いところだろうとアルスは言った。
「かといって外に解き放ったところで、今度は物理的に死んでしまうわ…この子一匹では、ね?」
「それって…」
リィンはガウラの言いたいことを察し、マスクロプスと彼女を交互に見つめる。
マスクロプスには魔法回路があるが、演算領域がない。
人間…リィンには演算領域があるが、魔法回路がない。
両者は、出来過ぎなくらい噛み合っていた。
「等価交換…」
「その通り!この子とならカ、ン、ペ、キ、に!共存共栄よ!これならリィンくんも納得出来るかしら?」
リィンは淡墨の瞳をウロウロと彷徨わせ、マスクロプスと改めて対峙する。
マスクロプスは会話が理解出来たのか、どんよりした目に僅かな光を入れて彼女を見つめていた。そんな顔をされては、嫌だなんてとても言えやしない。
「あのね…私は、凄く弱いと思う。キミが望む景色を私があげられる保証は、正直無いよ。契約もまだ怖いし、抵抗もあるんだ。そんな意気地なしな私があげられるとしたらそれは…ただ一つだけ」
リィンは相変わらず困った顔で、けれども一度伏せてからあらわにした瞳はどこまでも凛と煌めいている。
気持ちの高ぶりが魔力を刺激したのか、満天の星空に似た光がそこにはあった。
その強さと神秘性に、マスクロプスもガウラもアルスも小さく息をのむ。
「…キミを、大切にする。それだけは、その誓いだけはあげられる」
プロポーズか何かかと勘違いしそうな重みをもって、その言葉は紡がれた。
マスクロプスは茫然とリィンを見つめ、鉄仮面の下を赤く染め上げる。いや、元々赤いが、比喩である。
体にそぐわない大きな手をモジモジさせ、騎士の面に似た鉄仮面のスリットから見える目は動揺でガタガタに揺れていた。ともすれば全身から湯気でも出そうである。
「そんな私でよければ、その…?」
マスクロプスの手が檻の隙間からニュッと伸び、リィンの服を破かないよう摘んだ。
キョトンと目を瞬かせたリィンは、遠慮がちなわりに絶対に逃さないという意思を感じる手をそっと撫でる。思ったほど熱くはなく、生き物の温かみそのものだ。
「いいの、かな?」
「むしろ…ここでやっぱ無しって鬼じゃない…?」
「こっわ…何よこの純粋爆撃…流れ弾で死にそうよ…」
オロオロするリィンに、一歩離れたところで抱き合ったガウラとアルスが頬を染めながら震えた。
未知の生命体に遭遇した気分である。
「あの、ガウラ先生。契約するなら、この子にします…いえ、この子と契約したいです!」
「そうして頂戴…責任は取るべきよ…」
「え??」
とんでもない子を迎え入れてしまったなと遠い目をしつつ、ガウラは契約に必要な道具を収納型魔具から取り出していく。と言っても、必要なのは水と桶と針くらいだが。
ガウラは桶に水を張り、そこにリィンとマスクロプスの血を一滴ずつ垂らした。血と共に混ざった両者の魔力が反応し、桶の中身がぼんやりと光る。透き通った水を見るに、相性は悪くなさそうだ。相性が悪いとここで濁る。
「リィンくんは桶に利き手を入れて、マスクロプスのどこか一部に触れながら契約を…名前を付けてあげて頂戴」
「は、はい!」
リィンは血を取るために檻の外に出されていたマスクロプスの手を握り、おそるおそる桶に右手を沈めた。
なんとなくムズムズするのは、自分以外の魔力があるせいだろうか。
「グゥル」
「名前かぁ…うん。よし、決めた」
『ソキウス』
紡がれた音と同時に水が波打ち、沈めていたリィンの手を何かが焼いた。そしてその何かはリィンを伝ってマスクロプスに流れ、お互いの体内へと溶けるように消えていく。
後には、リィンの手と彼女が触れていたマスクロプスの手に揃いの契約紋…背中合わせの二つの三日月が一番星から伸びた紐で固く結ばれたような模様が浮かんでいた。
「はぇ〜これが契約…思ったよりすんなり…」
「いや、普通はもっと痛いし馴染むのに時間かかるんだけど…」
「まぁ、お互い合意の上だからじゃない?ほら、檻から出してあげるわ」
カシャンと軽い音を立て、マスクロプス…ソキウスを囲っていた檻が消える。
途端、リィンは辛抱たまらんと駆け出した。
「ソキウスーーー!はわわわわ、熱くはないし、毛はサラサラ!思ったより筋肉質!ムキムキなんだね!?」
「グゥルル」
「わ、抱っこはちょっと恥ずかしいんだけど…私重くない?んふふ、そんなにスリスリされると擽ったいよぅ!」
秒でイチャつき始めた魔獣とリィンに、ガウラとアルスは何度目かも分からないため息を吐く。
あれでは契約魔獣ではなく恋人か何かである。
まぁおそらく、彼女に常識を…少なくともカタルシアの普通を求めるのは無意味なのだろう。
気にしていたらこちらの脳が焼けそうだ。
そもそも、契約があろうと魔獣は魔獣で、その力加減次第ではじゃれつかれただけでも容易く人間は死ぬ。爪も牙も時には体そのものが人間を傷つける事も少なくないのだ。
それなのに契約したてでアレである。命知らずにも程があった。
ただ、そんな所も面白いなとアルスは目を細める。
「おーい、リィン!せっかくだし、魔法使ってみたら?」
「んぇ?」
「グル…!ルゥ、ルゥ!」
「ほら、ソキウスも乗り気だし」
リィンを腕から下ろしたソキウスは、四つ目をキラキラと煌めかせながら彼女を見つめた。
人間が魔法に憧れるのと同じで、ソキウスだって魔法に憧れ、焦がれていたのだから。
「先生だって、リィンが魔法を使えるように契約を勧めたんでしょう?」
「まぁ、その通りよ。実習中の自衛手段として必須だもの」
カタルシアは安全ではない。街や街道はともかく、整備が及んでいない地域は野生の魔獣や精霊の無法地帯と言っても過言ではないのだ。
校外実習の際、襲われないとも限らない。
それに、他の危険もある。
「リィンくん、魔法の使い方は知ってる?」
「それは、はい。前のスクールで習ってます」
ガウラは頷き、白衣のポケットから色とりどりの宝石のようなものを取り出した。
これは魔石と呼ばれている魔力の結晶で、中に魔法式を入れる事が出来る。
ここに演算領域で描いた式を詰め、魔力と共に契約紋に喰わせることで、魔獣や精霊に使ってほしい魔法式を渡すことが出来るのだ。
ちなみに、喰わせるといっても物理的な話ではなく、契約紋のついた手に魔力を込めて魔石を砕くだけである。
「ソキウスの属性は分かるかしら?」
十人十色という言葉があるように、魔法にも個体ごとの得手不得手があるものだ。しかし細かな差は当然あれど、同じ種族なら得意な魔法と苦手な魔法はほぼ同じになる。
それを分かりやすく色として分類しているのが属性というもので、赤なら火や攻撃的な魔法が得意だし、青なら水や守りの魔法が得意…といった具合だ。
尚、契約者であれば個体差…より細かくどの属性にどれくらい傾いているのかまで分かる。
「えっと…赤ですかね」
「なら、この魔石ね。火球が込められてるわ」
「込められて…?あ、えと、ありがとうございます」
リィンは少し違和感を覚えたが、渡された小指ほどの赤い魔石を素直に受け取った。
ドキドキしながら周りを見れば、皆一様にワクワクとした好奇心を隠さずこちらを見ている。
特にアルスが酷い。
ぐっと高まったテンションそのまま、アルスはリィンの真横からのぞき込んでいた。が、異性の顔が近づいてきた照れより先に、リィンには呆れが来る。
(か、観察しようとしてる目だなこれ…)
あまりにも露骨なそれに、私は珍獣か!と叫んでやりたくなる。やらないが。キャラの安定は大事だ。
「…よし。やってみよう、ソキウス」
「グゥル!」
誰もいない方を向いたソキウスに、リィンは深呼吸をした。
そして、魔石にほどほどの魔力を流し込みながら…右手でパキンと壊す。
「グルゥァ!」
刹那、ソキウスの口からバスケットボール大の火球がドッと放たれ、着弾した途端にグラウンドを焼いた。
間違いなく、火球の魔法である。
「で、出来た!出来たねソキウスー!」
「グゥルルルゥ!」
「おぉ…!凄い、凄い!初めてとは思えないくらい綺麗な魔法だったよ!」
「んへへ、だってよソキウス!キミは凄い!最高!」
「グゥル…!」
その欠陥の為、生まれてこの方褒められた事など無いソキウスは、感無量といった様子でリィンを抱き上げてムギュムギュと頬ずりをした。リィンも弾けるような笑顔でそれに応え、上気した頬と黒なのに眩しいくらい光る瞳を携えている。
ガウラは関係は良好だなと安心しつつ、ふとアルスを見た。
ぼうっとリィンの笑顔を見る彼の耳が、どう見ても赤い。
おや?ガウラの片眉が上がった。
「そういえば、アルス。アルスはどんな子と契約してるの?」
「え、あ、僕?僕は…出ておいで」
アルスの契約紋が光ると、それに呼び出された大きな魔獣が現れる。契約した魔獣や精霊の大半は、亜空部屋の魔法で作られた亜空間で過ごしているのだ。
現れたのはでっぷりとしたハムスターを人並みの大きさにしたような魔獣。腹部には管のようなものが巻き付き、頭上まで伸びている。見た目はそう…スーザフォンだ。
「はわわわわわ…!この子も初めて見る!」
「カタルシアの固有種だからね。ね、ちょっと近付いてご覧?」
「え?」
言われるがままリィンはその魔獣の正面に立ち、可愛らしいつぶらな瞳と向かい合う。
「ストマク」
この子の名前だろうかとリィンが思ったのも束の間。目の前の愛くるしい魔獣の口が…腹部までバカッと開いたのである。
端的に言おう。物凄く怖い。というか生々しい口内がグロい。
「ひょえっ!?何何何!?く、口!?えっ!?」
「あっはははははは!!」
「アルス!!」
アルスの契約魔獣大口鼠型魔獣は、何でも飲み込んで消化出来る強靭な胃と、体の半分以上を占める巨大な口が特徴だ。
見た目こそ愛くるしいハムスターだが、だからこそ口のインパクトが凄い。
リィンは薄っすら涙目になりつつ、口を尖らせながらアルスを睨んだ。
「少し前から薄々感じてたけど…アルスって結構性格悪いね」
「えっ!?」
「あら、ようやく気づいたの?そいつ、私の生徒の中でも一、ニを争う腹黒よ」
「えっ!?」
「ふぅん」
「ち、違う!いや、リィンの反応を見たかったのは違わないけど…!」
「もうその時点でギルティだよアルス…」
第一印象はあてにならないものだとリィンは学んだ。
驚いたリィンの様子すらガッツリ観察している男が、爽やか系であってたまるか。
ちょっとマッド寄りの探求者だこれは。
ギャアギャアと騒ぐ二人と二匹に、ガウラは目を細める。
スッキリした顔のリィンは勿論だが、彼女はアルスの変化も喜んでいた。
爽やかな好青年に見えて、アルスは中々に冷めた生徒だ。
その分知りたいと思った事への情熱は半端ない、というか引くレベルだが…特定の人間に入れ込む事は無かったように思う。幼少期、両親や周囲への失望が強かった過去を持つせいで、他人への期待や興味が薄いのだろう。
それが、あの目だ。
まっすぐと彼女を射抜き、その一挙一動を知りつくそうと光らせている…のはちょっとどうかと思うが、それでも確かに己の世界に彼女を置いている。認めている。
「…なーんかうらやましいわね。はぁ…アタシも青春したいわ」
ぼやいたセリフは、亜空部屋の中にいる彼女の契約精霊だけが聞いていた。




