表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/22

8.ファームルワ


「なーんだ、ベルセルさんだったのかい!いつもよりボロっちいから分からなかったよ!!」

「はぁ…」


入り口でベルセルに「人攫い!」と叫んだおばさんは、ケラケラと笑いながら彼の薄い猫背を叩く。

とても痛そうだなと苦笑しつつ、リィンは首を傾げた。


「ええと、お知り合いですか?」

「ああ!よく来てくれてるからね!顔見知りではあるさね!!で?今日もいつもの調査かい?ああ、畑の土のサンプルは村長のとこの魔道具に集めてあるからね!好きにもってっとくれよ!」

「…それもあるが、今日はこの子に遺跡を見せたくて来た。いいか?」


おばさんの勢いに押されつつもベルセルがそう伝えると、おやま、と丸くなった目がしげしげとリィンを見つめる。


「成る程ねぇ、実習生かい?」

「はい!お邪魔してます!セントール学園のリィンです。こっちは相棒のソキウス!」

「グゥルグルゥ!」

「あっはっはっ!そんな硬い挨拶なんざいらないよ!自分の故郷とでも思ってくつろいで行くといいさ!遺跡も、自由に見ていきな!」


ぬっと伸びてきた手に自分の背も餌食になるかと思ったが、ふくよかなそれは優しく彼女の肩を撫でていく。

爪の間には土が入り込み、あかぎれだらけでガサついた手は、働き者の綺麗な手だった。


賑やかなおばさんと別れ、リィンは改めてファームルワを見渡す。

村の周囲は厚い木々の壁に囲まれてこそいるが、天井はぽっかりと開いており、おかげで圧迫感はない。

久しぶりに網から解放されたカタルの空が、心なしかいつもより眩しく見えた。


その光に照らされる丸太を組んだログハウスの群れは、まるで呼吸をしているような存在感でそこにある。

人工的でありながら、暖かく穏やかな風景は、なるほど確かに故郷のような安心感を与えてくれた。


「ここ、ファームルワはカタルシア随一の農業地帯だ。特に、野菜と穀物類はすべてここで賄っていると言っても過言ではないな」

「農業地帯、ですか?そのわりには…畑が見えませんけど…魔道具の技術…?」

「ふん…森の中に畑は作らん。ここは人家を置く生活区で、畑は森を抜けた先に広がっている。キミもここを抜けたら見てみるといい。壮観だぞ」

「クゥイ!」


曰く、この生活区の出口が森の出口であり、その先が畑の広がる平原とのこと。

フラーテルもオススメらしいその光景を想像してワクワクしていると、リィンの目にとある物が飛び込んできた。


「わぁ…!」

「グルルゥ…!」

「ピピィ…!」


村の中心部にどっしりと腰を据えた巨木。

見上げてなおてっぺんが見えないそれは、彼女が十人いても囲めないだろう。

苔むした幹は老人のごとく歴史をシワに刻み、静かに、けれども肌で感じる苛烈な生命力と澄んだ魔力を秘めていた。


「立派な木ですね…御神木ってやつですか?」

「当たらずとも遠からずだな」


曖昧な答えを返したベルセルは、すっと筋張った指を巨木に向ける。 


「あれが遺跡だ」

「えっと、木が…??」

「よく見ろ。木を含めた一帯が、だ」


言われて目を凝らせば、確かに木の周りにはいくつか石造りの何かがあった痕跡がある。

アーチの残骸、壁の名残、棚に似た何か…ほとんどが原型をとどめないくらいに崩れ、苔と蔓がその傷を覆っているが…巨木の虚の中に作られた祭壇だけは綺麗に残っていた。


「…何人かキミと同じく学生がいるな。まぁ、ここを調べるのは…計算するまでもなく重要だが」

「なら…邪魔しないようにしないとですね」

「グゥ?」

「ピピ?」


しー、だよとソキウスの鉄面とウィズの嘴を指でつつくリィンに、ベルセルは呆れの眼差しを送る。


「遠慮する必要がどこにある。キミもここの調査をしに来た実習生だろう。それとも、観光だけのつもりだったのか?」

「違いますけど…でも、やっぱり先着順というか…割り込むのはちょっと」

「はぁ…変な所で謙虚だな」


リィンは、基本的に自分は謙虚ですけど?という主張を込めてベルセルを睨むが、彼は鼻で笑って一蹴した。

そして、ずんずんと巨木の方へ進んでいくではないか。

そのまま侵入防止の魔道具をあっさり素通りして虚の中まで入ってしまった。


「ちょ、ベルセルさん!?」

「…先着順というなら、今この祭壇は誰もいないだろう」

「いやいやいや!ここって入って大丈夫なんですか??」

「ふん…先程許可は取ったが?現に魔道具に阻まれていないだろう」

「先程…???」

「わたしを不審者扱いした奥方がいただろう。今は彼女がこの祭壇を管理している、と言えばわかるか?」


確かにベルセルは彼女に遺跡見学の許可を求め、彼女はそれを了承していたが…


「すごい偶然…いえ、これも計算ですか?」

「ふっ、さぁ、どちらだと思う?」


挑戦的に顎をくいと上げたベルセルに、リィンは大人の小狡さを見たのである。


さて、虚の中に入ってみて分かったが、ここはただ祭壇が置いてあるだけではないらしかった。

左右の壁には壁画のような絵が描かれており、頭上には白っぽい石で作られた像が飾られている。


「あれは…鳥…の、魔獣、いや精霊ですか?」


一点の黒も許さないとでも言いたげなほど几帳面な白。

表情も凛としていて、清流を思わせる 涼やかさがある。

翼とは別に扇のように広がった尾羽根は草の蔓を編み込んだようなデザインで、所々に丸い何か…花、いや、実だろうか?それがたわわに実っていた。


感嘆の息を吐くリィンの横で、ベルセルは一度痛みを堪えるように目を伏せ…そっとその名を音に乗せる。


「浄化の化身、純白孔雀型大精霊(プルガティウス)。人より遥か昔からこの地に住まうという、大精霊だ」

「プルガティウス…ですか…うん、迫力あります」

「グゥルゥ…」

「ピピ」

「ここの壁画には、その大精霊に関する神話が刻まれている」


リィンの目がベルセルに向く。

分かりやすく期待のこもる色は寝物語をせがむ子供そのものだと、彼は額を抑えた。

まぁ、今強請っているのはそんな優しい物語ではなく…この国のいわゆる建国神話なのだけれど。


「…一度しかしない」

「はい!」

「…聞きにくくとも文句は受け付けない」

「はい!」

「はぁ…計算外…でもないか」


そして、疲れをはらんだバリトンは紡ぎ始める。


ー…遠い昔、この地が未だ名も無き荒野であった頃の話。

その頃、世界は混沌の中にあった。

各地で起こる争いが澱みを生み、大地を腐らせ、命の鼓動は枯渇する寸前であったという。


そんな中、争いから逃れた1人の旅人がこの地に流れ、辿り着く。

ふと、旅人は乾いた荒野の中で一粒の「石のような種」を見つけた。

旅人は、それがもはや芽吹かぬ死骸であると知りながらも、己が生きるために得た霊泉の、その最後の一滴を種に捧げることにした。


すると、種は途端に眩い光を放ち、みるみるうちに一羽の白き鳥の姿をした精霊へと姿を変えたではないか。

なんとその種は、精霊が眠りについていた姿だったのだ。


それが羽ばたくたび、荒野に清らかな風が吹き荒び、穢れは霧散していく。正しく世界を洗い流す「浄化」の舞であった。


舞の最中、精霊の翼から4つの「光の粒」が零れ落ちる。

光は大地に吸い込まれると、周囲に草花を咲かせながら瞬く間に立派な木へと成長した。


やがて大地に緑が戻ったのを見届けると、その精霊は最も大きく育った木へと降り立ち、旅人をじっと見定める。


そして一つ頷くと、木に溶けるように姿を消し、旅人の手のひらには一粒の種がコロンと残ったという。


後に、旅人は己の家族や一族を呼び寄せ、この地に小さな社を建てた。

そして種と共に純白の大精霊を祀り、この美しい地を守りながら生きていく事を誓ったという。大地が分かたれ、この地が国となった後も、ずっと。…ー


そっと木の肌に余韻を吸い込ませ、ベルセルは口を閉じる。一気に語ったからか、合わせた唇は少し乾いていた。

リィンは最後の音まで拾うように息を潜めていたが、やがてペチペチと下手くそな、けれど気持ちのこもった拍手を送る。

それこそ、一生懸命まくってようやく左右揃えた白衣の袖が、ズルズルと落ちてくるのも気にならないくらいに。


「ベルセルさんの声もお話も素敵でした!ありがとうございます!」

「前者の感想はどうでもいい」

「それにしても…プルガティウスって人間が好きだったんですねぇ。あ、それとも旅人さんが好きになっちゃったのかな?」

「は???」


一瞬、ベルセルはリィンが何を言っているのか掴み損ねた。

その解釈があまりに計算外であったからだ。

いや、彼女といると常といえば常なのだが。


「…ちょっと待て。その感想は、どこをどうしたら出てきた」

「え?だってほら、実際には大精霊って神様じゃないじゃないですか」

「…続けろ」

「うーん…どう説明したら…あ!そうだ!例えば…ねぇ、フラーテル」

「クゥ?」

「キミは、争いを起こしたりものを壊したり汚したりする、特に好きでもない誰かが目の前にいたとして…家に住んでもいいよって思える?」

「クィ"!」

「それが恩人でも?」

「…ィ"ッ」

「じゃあ、それが好きな人…ベルセルさんとかだったら?」

「…………クゥル」

「と、いうわけです!」


我ながら悪くない例えが出来た気がして、リィンはちょっと胸を張る。頭の上で真似をするウィズが何とも微笑ましい。

あいにく、ベルセルにそれを感じる余裕はなかったが。


彼はリィンの言ったことを反芻し、理解し、納得する。

単純な話、生き物なら好き嫌いがあるのは当たり前というだけなのだ。


プルガティウスは人より昔からこの地にいたという。

神話の通りなら、この地は人々の争いの中で枯れ、その身もまた余波を受けて力を失っていたのだろう。

つまり、人がどういう生き物かを知っていたはずで…

仮に、プルガティウスが嫌な印象を人に持っていた場合、ただ一滴の水でもって救われたというだけで…恩だけで許容できるものであるのか?


リィンの解釈ではそれを否とした。

ベルセルであっても同じ答えを出す。

では、許容に至る"理由"が何であるかを想像した時…リィンの呟いた二つの可能性が確かに存在していたのだ。


許容できる程に人間という種を好いていたか。

許容できる程に旅人という人間を好いたのか。

どちらにせよ、プルガティウスが人間という種を前向きに捉えたことに違いはない。


「だとしたら…そうであるなら、尚更…我々人間は、罪深いな」

「??どうしました?」

「…何でもない。わたしの事より、キミは調査を続けなくていいのか?時間は有限だぞ」


はぐらかされたな、と思いつつリィンは素直に祭壇や壁画、今聞いた神話をメモに落とし込んでいった。


「ふふっ、プルガティウスかぁ…きっと綺麗なんだろうなぁ…あ、神話にあった四本の木ってまだカタルシアにあるんですか?」

「それは…」

「残念だけどね、各地にあった三本は既に枯れちまって、唯一残った木…この巨木も…30年前のあの日から芽吹かなくなっちまったんだよ、お嬢ちゃん」

「え?」


突然の声に驚いて振り返ると、入り口で出会ったおばちゃんが水差し片手に立っている。

おそらく、祭壇の平皿…今は少し濁った水が揺れ、枯葉が浮いているそこに新しく注ぐのだろう。


「って、この木が神話に出てくる木なんですか!?」

「あっはっはっは!そうだよ。何なら、プルガティウスが最後に消えた木でもあるね!」


リィンは首が飛びそうな勢いで木を見上げ、閉じることを忘れた口から言葉にならない感嘆の音を漏らした。


「プルガティウスも…昔はよくカタルシアの空を飛んでたんだ。それはもう綺麗でね。でも…最後にその姿を見せたのは確か、30年前くらいじゃないかい?」

「全部30年前なんですね…?」

「そうだねぇ…」

「…色々、あったから…な」

「クゥーク…」


(30年前って確か、森でベルセルさんが話してくれた…フィオーレ区の緑がどんどん消えていったあれだよね?)


ノコリノ森という名前の由来を聞いた際、少し話してくれた災禍。

プルガティウスが姿を見せなくなった理由がそこにあるのだろうか。

それとも、もっと別の…


リィンは押し黙ってしまったベルセルをチラリと見上げ、もにょっと口を歪めた。


(うーーん、絶対に何かはある!色々って所に何か…けど、私に聞かせてくれる気は無さそうなんだよね…意地悪とかじゃなくて、たぶん…何となく、すごく…うん、"痛い"んだよ、きっと。"話さない"んじゃなくて、"話せない"んだ)


気遣わしげに彼の背を撫でるフラーテルの尾が、きっと答えなのだろう。

ベルセルには、"30年前"というキーワードのどこかに、深い深い傷がある。


けれど、リィンはちょっとおませさんだから知っているのだ。


「うーん残念です。見てみたかったなぁ!」


時には知らないふり、気づかないふりをしてあげるのも、子供の仕事なのだと。



ピリリリリ、ピリリリリ…


遺跡を調べ、メモを賑わせることしばらく。不意に、ベルセルの通信魔具(スマホ)が鳴り響いた。

なぜだか凄く遠くから聞こえたようなそれに、リィンの心は酷くざわつき出す。


ベルセルは画面を確認すると、とても手慣れた様子で手の平をひらりとこちらに向けて背を向ける。

あぁ。そうか。なるほど…。わかった。

そんな、短く、事務的な返事だけが無造作に投げ捨てられ、そこら辺の小石のように転がっていく。

そしてその小石は間違いなく、リィンの足を躓かせた。


「…」

「ベルセルさん?」

「…はぁ…悪いが、用事ができた。わたしは今からでもここを出ようと思う」

「…っえ」


慌てて片付けようとメモとペンをまとめる彼女に、彼は待ったをかける。


「キミはまだこの村で調べたい事もあるだろう。何せ、来たばかりだ。それに…元々、その予定だった」

「そ、れは…」


"予定は当然ある。目的地も異なる。だが、どうせ方向は同じだ。ファームルワまで程度なら問題ない"


確かに、そんな言葉から始まった二人旅で、つまり…ファームルワ(ここ)が終着点である事は、最初から決まっていた。


リィンにも分かっている。分かっていた。ずっと続く旅ではないことくらい。

それでも…受け入れるには並々ならぬ苦労が必要だったのだ。


ベルセルとの旅路が、ただ、とても、楽しいものであったから。


ぽたり、と晴れ空の元で雫が落ちた。

メモの字を滲ませたそれに、彼女は自覚する。


「……なんて顔をしているんだ、まったく」

「これ、は…っ、だ、だって…」


さみしい、と。ただその四文字を。

フラーテルが、慰めようとそっとその体を押し付けてくれたのが分かった。

しっとりした温かさがまたさみしさを助長させてきたけれど。

ソキウスもそれにならってギュッとリィンを抱きしめ、ウィズは肩に降りて首を擽る。


「まったく…今生の別れでもないだろう。キミがこの国を旅するなら、またどこかで会える…どころか、案外すぐ再会するかもしれないだろう?」

「…っ、大人って、ずるいです。そんな…簡単に…っ、名残惜しいとは、思ってくれないんですか…!」


いつもはちょっと意識していたお澄ましも形無しで、リィンは思わず子供っぽさ全開の不満をぶつける。

けれども、ストレートな言葉だからこそ、捻くれた大人を揺さぶるものなのだ。


「はぁ…あぁ、まったく…計算外だ。本当に…何なんだキミは」


こういった、無垢の塊に慣れていないベルセルのような人間なら、余計に。


「あぁ、くそ………わたしとて名残惜しいさ。叶うなら、キミの目に映るこの地を、同じ歩幅で見ていたくなった。そこに嘘はないと誓おう」


片手で顔を覆って空を見上げた彼は、けれどもやがて観念したように眉の下がった表情を晒し、喉の奥から本音を絞り出す。


「ただあいにく、わたしにはやるべき事がある。…やりたい事がある。わたしがやると決めた事がある」


それでも、やはり彼の三白眼の奥にギラつく何かは揺らがない。

それが彼らしいと認めてしまった、子供の負けであった。


「分かってます…っ、ごめんなさい。困らせ、ました…」


リィンは夜露を払うように駄々の残滓を振り払う。

その目はまだうっすら水の膜が張ってはいたが、いつも通りの煌めきが真正面からベルセルを見つめた。


「ベルセルさん、フラーテル。ここまで、ありがとうございました。本当に…本当に楽しくて、ためになる旅でした!」

「ふっ…こちらこそ、と言うべきだな」

「クゥイクゥールィ!」

「そうだ!次に会ったら、是非私のレポートの添削をしてくださいよ!」

「赤字だらけになる覚悟があるならな」

「ゔっ…手加減してくれても…いえ、いいです!受けて立ちます!」


精一杯の虚勢で軽口を叩き、リィンはずいっと右手を伸ばす。

それを不思議そうに見てくるベルセルにちょっとだけ引いた。この流れでその顔は対人スキルが低すぎやしないかと。


「カタルシアには握手の文化がなかったりします??」

「…あぁ、握手か。なるほど」

「もう!」


ぎこちなく握られた手を、ギュッと握り返す。

自分より体温が低く、ゴツゴツとしていて、処置もしてない傷や荒れが目立つ無骨な手。ダンジョンでも触れた、雪のような手だった。


「また会いましょうね!!約束です!」

「ふっ…いいだろう。わたしの計算では約束するまでもないがな」


と、ズルリと下がってきた袖にハッとする。


「そうだ白衣!いま脱ぎますね!いや、洗って返すべき…?」

「はぁ…いい。ここには服屋がない。引き続き着ていろ」

「えぇ?でも…」

「むしろ、邪魔でないならそのまま持っていろ。…返されても、子供サイズにまくられた跡がついた白衣など…格好悪くて着られん」


相変わらずのぶっきらぼうな物言いながら、声色はひたすらに柔らかい。

リィンは脱ごうとした白衣を着直し、喜びを握って皺にした。


「いいんですね?もらいますよ?返しませんよ??」

「好きにしろ」

「ふふっじゃあ、…この白衣が似合うレディになってみせますね!」

「楽しみにしていよう。…ではな。道中気をつけるように」

「クゥルゥ!クゥールィ!」

「はい!そちらもお気を付けて!…さようなら!」


そんなやりとりを最後に、足早に、一度も振り向かないままシュッと消えた薄情な背を見送って、リィンは呟く。


「さみしくなっちゃったね」

「グルグル」

「ピィピ」

「っふふ、うん。そうだねソキウスも、ウィズもいる。大丈夫…ちゃんと歩けるよ」


ここからは、正真正銘のリィンの旅路だ。

今は心細さが強いけれど、きっと次に踏み出す一歩にはワクワクが返ってくるだろう。


「あれ?」

「グゥル?」

「なんか、多機能型通信魔具(タブレット)がブルブルって…あ、えっと、何?"キミがさみしくないように、わたし特製の魔道具を外付けしておいた。起動すれば行きたい場所までナビゲートしてくれる優れものだ。せいぜいうまく使えばいい"…いつの間に」


やっぱり不器用だなぁと、リィン達はカラカラ笑った。

タブレットには、いつの間につけたのやら…可愛らしい長耳手兎型魔獣(アウヌスレプス)のキーホルダーが揺れていたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ