表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/28

第8話(偽)聖女と(偽)聖女の初邂逅

 生徒会室を出たリディアーヌは、そのまま二年生の教室へ向かった。

 入学式の今日は、一年生の授業はない。今すぐ帰宅してもいいが、憎き敵・ニコレットの姿を確認しておこうと考えたのである。


 私の噂を聞いて、内心焦っているはず……よね。


 二年生のクラスは四クラスある。ニコレットを探すのは大変かと思ったが、最初に覗き込んだ教室で早速彼女を見つけることができた。

 見たこともない彼女をすぐに特定できたのは、「ニコレット嬢」と呼びながら彼女を取り囲む連中がいたからである。


 波を描いたふわふわの亜麻色の髪に、大きな蜂蜜色の瞳。

 身長は低く身体つきは華奢で、おっとりとした雰囲気を纏う美少女。


 な、なによあれ……! 聖女オーラが凄すぎるじゃない……っ‼


 美少女っぷりで負けている気はしないが、どう見ても聖女感では負けている。しかもニコレットは貴族の令嬢らしく、挙動の一つ一つが優雅で上品だ。


 柱の陰に隠れてしばらく様子を窺っていると、ランベールが生徒会室から戻ってきた。その途端、ニコレットが立ち上がってランベールのもとへ向かう。

 ランベールを見つめるニコレットの瞳は、あからさかまに甘い。


 なるほど。あの女、殿下に気があるのね。


 ニコレットの実家であるアロシュ侯爵家は国内有数の名家だ。しかも三世代前から、領地で栽培できる薬草を使った商売を始め、かなり財政が潤っていると聞く。


 どうしたものか、とリディアーヌが悩んでいると、ひっ、と急に悲鳴を上げられた。

 慌てて目線を向けると、入学式で足を引っかけてきた女生徒が立っている。そして彼女の声に反応し、教室からニコレットが出てきた。


「……貴女は」


 目が合った瞬間、ニコレットは大きな瞳を涙でいっぱいにした。


「もしかして、わたくしを責めにきたの……? わっ、わたくし、嘘なんてついていないのに……」


 はあっ!?


 いきなりのことに唖然としていると、ニコレットは廊下にしゃがみ込んでしまった。すると、取り巻き連中がリディアーヌを睨んでくる。


「……わたくしはずっと、自分が本当の聖女だと言い出せなかったの。やっと言えたと思ったら、また……と、取り乱してしまってごめんなさい。でもわたくし、怖くって……」


 お前が嘘ついてお姉様を追い出したんだろうが! と怒鳴りつけてやりたいところだが、そんなことをすれば相手の思うつぼだろう。

 聖女と聖女の初邂逅。実際にはどちらも偽物なわけだが、本物としてアピールしなくてはならない。


「ニコカ……ニコレット様。わたくしは、貴女を偽物と言いにきたのではありませんわ」

「……リディアーヌさん?」

「聖女は一人と言われてきましたが、たまたま、聖女が二人になっただけかもしれませんもの」


 相手を責めてはいけない。しかし、引いてはならない。

 だからこそまずは、この姿勢でいくしかないだろう。


「同じ聖女同士、仲良くしたいと言いにきたんですわ」


 微笑んで、右手を差し出す。ニコレットがその手を掴んだ瞬間、全力で手を握り返してやりたい衝動を堪えつつ、柔らかく握手を行う。


「これからよろしくお願いしますわね、ニコレット様。それでは失礼しますわ」


 頭を下げて歩き出す。誰もいないところまで歩いた後、リディアーヌは密かに小さく円を描いた。

 そして、音もなく魔法を発動する。


 水魔法と風魔法を組み合わせた、二段階の魔法。


「きゃ、きゃあっ!?」

「ニコレット様!? 大丈夫ですかっ!」

「ど、どうしてこんなところが濡れて……!?」


 派手な転倒音とニコレットの悲鳴、そして駆け寄る取り巻き達の声。どうやら、リディアーヌの魔法は問題なく成功したらしい。


 小さな水たまりを生み出し、風魔法でニコレットを水たまりの上へ押す。さらに、風で彼女が転倒するように仕向ける。

 たいした魔力は必要ない。しかし、細かい魔法操作を必要とする高等技術である。


 今できるのは、些細な嫌がらせだけ。

 このタイミングでニコレットが大怪我をすれば、真っ先に疑われるのはリディアーヌだからだ。


「……本当はこういうのも、控えなきゃいけないんだけど」


 仕方がない。これは宣戦布告のようなものだ。


 あと一ヶ所だけ行って、今日は家へ帰ろう。


 そう決めて、リディアーヌは足を踏み出した。

 聖竜が暮らす竜舎へ向かって。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ