第7話 生徒会室への呼び出し
「こっちだ」
リディアーヌを呼び出したイケメンは、名乗るどころか必要最低限の挨拶すらせずに歩き出した。
顔はいいが、顔以外にはいろいろと問題のありそうな男である。
っていうか……生徒会ってなんだっけ、なにするとこなんだっけ!?
聖女のふりをすることに必死過ぎて、学園生活への関心が薄れていた。だから、この学院における一般常識を身に着けていないのだ。
当然、このイケメンについても知らない。
ネクタイの色が青だから、二年生ってことだけは分かるんだけど……。
「ここだ」
イケメンは『生徒会室』と書かれた部屋の前で立ち止まった。
振り向いて、リディアーヌをじっと睨みつける。薄紫色の瞳は宝石のように輝いているが、どこか陰気な印象のある男だ。
「……リディアーヌ嬢。急に連れてきてすまない」
「えっ!?」
あ、この人謝ったりするんだ!?
驚いて固まっていると、イケメンは軽く頭を下げた。なんだか偉そうな奴だと思っていたけれど、愛想がないだけなのかもしれない。
「……この学園には既に『聖女』がいる。だから、リディアーヌ嬢を放っておくことはできなかった」
「そ、そうなんですのね。わたくしこそが聖女ですのに……」
知らなかった、という顔をしつつ、自分が本物だというアピールもしておく。
イケメンは頷くと、扉を開ける前に一つ言っておくことがある、と告げた。
「……なんですの?」
「兄上に迷惑をかけるようなことがあれば、『聖女』だろうがなんだろうがここから追放する。以上だ」
どうやらこのイケメンは、やばいブラコン男らしい。
◆
「兄上、リディアーヌ嬢をお連れしました」
ノックをした後、イケメンが扉を開く。
中に座っていたのは、ランベール・アズナヴール……王太子殿下だった。
「へっ!?」
じゃあこのイケメン、殿下の弟なの!? 殿下って弟いたっけ!? 一人っ子じゃなかった!?
混乱しながら、とりあえず慌てて頭を下げる。昨日ぶりだね、と爽やかに笑うランベールは、不愛想なイケメンとはあまり似ていない。
「セレスタン。彼女を怖がらせるようなことはしていないだろうね?」
「はい、兄上。紳士として、礼を尽くしてお迎えいたしました」
いや礼は尽くされてないっ! と言いかけたが、セレスタンに目で制された。
なんなのよこいつ……。
「ごめんね、セレスタンはあまり女性の扱いに慣れていないんだ」
弟とは正反対の爽やかな微笑みを浮かべると、本題に移ろうか、とランベールが立ち上がった。
応接用のソファーに座った彼に、正面に座るよう促される。細心の注意を払いながらソファーに座ると、ランベールは早速話し始めた。
「君は、ジャネットの妹だよね」
「……は、はい」
「彼女は『聖女』だと言っていたけれど、本当は妹の君が『聖女』だったのかい?」
本物はお姉様です! と叫んでしまいたいけれど、そういうわけにはいかない。
姉妹そろって嘘をついているなんて勘違いされたら、バリエ家は本当に終わってしまう。
心苦しいけど、ここは嘘をつくしかないわね……。
「はい。わたくしこそが本物の聖女ですわ」
「じゃあなぜ、ジャネットは『聖女』を騙ったんだい?」
「……きっと、羨ましかったんだと思います。実家では『聖女』であるわたくしばかりが両親に大切にされていましたから」
真っ赤な嘘である。しかし、他に理由が思いつかなかった。
ごめんなさい、お姉様。いつかきっと、ちゃんとお姉様の名誉を回復してみせるから!
「……なるほど。今、ジャネットは自宅に?」
「き、厳しく両親に叱られ、自宅で謹慎しております。殿下にご迷惑をかけてしまったこと、姉も深く反省しております」
「そう」
頷いたランベールの目が一瞬細められた気がしたが、気のせいだろうか。
不思議に感じたが、気軽に尋ねられるような相手ではない。
「私達としては、『聖女』が何人もいるのは困るんだ。本当の『聖女』ならともかく、偽物の『聖女』がいる状況は認められない。今日君を呼び出したのは、それを伝えるためだよ」
「……はい」
「もし嘘をついているのなら、早く真実を口にした方がいい。今ならまだ間に合うよ」
「わたくし、嘘なんて一切ついていませんわ」
大嘘である。だが、王太子に詰められた程度でやめる嘘なら、最初からついていない。
「……そう。分かった。今日の用事はこれだけだよ。もう下がっていい」
「かしこまりました」
立ち上がり、礼をして生徒会室を後にする。
部屋を出た瞬間、どっと疲れが押し寄せてきた。
あーもう、本当に面倒臭い……っ!
とにかく、さっさとニコカスが偽物だって証拠を集めなきゃ!




