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第6話 似非聖女、いざ入学式へ

「にゅ、入学早々遅刻なんて聖女っぽくなくない!? てか聖女って遅刻とかしなさそうじゃない!?」


 騒ぎながら、とりあえず慌てて制服を着る。このまま家を出ても遅刻だが、聖女として身なりを整えずに入学式には臨めない。

 髪を編み込むのは省略するとしても、さすがに髪をとかなくては。


 ていうか寝坊するならせめて、お風呂は入っておけばよかった!


「ああもう、私ってば……!」


 屋敷で暮らしていた頃は、時間になればいつも誰かが起こしてくれていた。そもそも、寝坊という概念もたいしてなかった。

 だがこれからは毎日、時間通りに起きなくてはならない。


 最大限急いで身支度を整えた後、リディアーヌはサラドを胸ポケットに入れ、制服の上からマントを羽織り、全速力で家を出た。





 一度王都のはずれに移動した後、サラドに元の姿に戻ってもらう。

 アパートも王都のはずれにあるため、歩いて学院へ向かうより、サラドに乗って移動する方が早いのだ。しかも聖女アピールにもなる。


「とにかく急いで! お願い!」

「ぎゅるっ……!」


 サラドの背に乗って飛ぶ間、リディアーヌは必死に聖女らしい遅刻の言い訳を考えたのだった。





 入学式は王立学院の敷地内にある講堂で行われる。だが、校庭が無人というわけではない。貴族の子弟が多く通う学院には、当然警備員が常駐している。


 リディアーヌがサラドに乗って校庭に降り立つと、警備員達は叫び声を上げた。


「りゅ、竜だぞ……!」

「噂の聖女様か……!?」


 サラドから飛び降り、笑顔で警備員達に一礼する。


 だって聖女って、なんか誰に対してもいつも愛想よさそうだし。


「サラド。私が合図するまでそのままでいて」

「ぎゅるっ!」


 サラドが尻尾を振って応じる。会話はできなくても、なんとなく私の言うことを理解してくれたのだろう。


 空を飛びながら私が考えた作戦はこうだ。


①竜を従えて登場し、聖女だとアピールする

②注目されたところで、『怪我をしていたおばあさんを助けた後、妊婦さんを病院に送ったから遅刻した』という優しい聖女っぽい遅刻理由を伝える


 うん、我ながら完璧。超聖女っぽい。たぶん。


 軽く深呼吸をし、講堂の扉を開ける。中にいた生徒達がサラドの姿を捉えると、講堂内は一気に騒がしくなった。

 王立学院は三年制の学校だ。入学式には、第二学年、第三学年の生徒も参加する。つまりここで聖女だということを示せば、間違いなく全校生徒に伝わる。


 ニコカスだって無視はできないはずよ。


 とはいえ、聖女として、この場で大騒ぎするわけにはいかない。

 リディアーヌは大きく息を吸い込み、精一杯の大声で叫んだ。


「リディアーヌ・バリエですわ! 怪我をしたおばあさまと妊婦さんを助けていたら、うっかり遅刻してしまいましたの! 少しでも早く到着するために竜に乗ってきましたわ! 申し訳ありません!」


 一息で謝罪し、勢いよく頭を下げる。慌ててサラドも頭を下げた。

 主人が頭を下げた時は、子分も頭を下げるべし。リディアーヌがジャネットを通じて厳しく教えたことである。


「サラド、小さくなって」

「ぎゅる!」


 ジェスチャーを交えて意図を伝え、なんとか火蜥蜴サイズになってもらう。サラドを胸ポケットに入れた後、リディアーヌは講堂に足を踏み入れた。

 講堂内には椅子が設置されており、前方が一年生、真ん中が二年生、後方が三年生という並びである。


 たぶん、あそこが私の席よね。


 前から三番目、右から四つ目に空席がある。背筋をピンと伸ばしながら早足で進んでいると、真ん中あたりで不意に足になにかが引っかかった。

 それが誰かの足だった、と気づいた時にはもう遅い。リディアーヌはバランスを崩し始めていた。


 だが、呆気なく転ぶようなリディアーヌではない。


 魔法が使えないっていうのが厄介だけど、私、運動神経だっていいんだから!


 空中で一回転し、華麗に着地を決める。そして、足を出してきた女生徒に微笑みを向けた。


「ひっ、ひい……!」


 ニコレットは亜麻色の髪をしている、と姉が言っていた。この女生徒は茶髪だから、ニコレットではない。彼女の友人かなにかだろう。


「ぶつかってしまって申し訳ありませんわ、先輩」

「あ、あの、その……こ、こちらこそ申し訳……」

「謝る必要はありませんわ。わたくしだって、うっかり、そう、うっかり、先輩の歩行の邪魔をしてしまう可能性だってありますもの」


 優しくそう告げ、また歩き出す。今度は誰も、リディアーヌの歩みを止めようとはしなかった。





「……おかしいわね。完全に孤立したわ?」


 入学式直後。予定では、聖女として多くのクラスメートに囲まれる予定だった。ニコレットの所属する第二学年ならまだしも、第一学年であれば、リディアーヌに話しかけてくる人は多いだろうと思っていたのだ。


 にも関わらず、リディアーヌは完全に孤立している。誰にも話しかけられないどころか、誰も隣に座ってこない。


 なんでよ!? 火竜に飛び乗って、インパクトのある登場をしたのに!?

 嫌がらせをされても平然と返してあげたのに!?


 ぼっちの聖女なんて、なんだか聖女らしくない。ここは強引にでも誰かに話しかけよう。

 そう考えたリディアーヌが腰を浮かせた瞬間、教室の扉が開いた。

 入ってきたのは、黒髪のイケメン。そしてイケメンの目は、まっすぐリディアーヌに向けられている。


 なに!? ナンパ!?


「リディアーヌ・バリエ。生徒会命令だ。今すぐこい」


 にこりともせず、けれどやたらと良い声で、イケメンはそう告げたのだった。

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