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第27話 本物の聖女

「ち、違いますわっ! 毒殺なんて、そんな、その毒には酔わせる程度の効能しか―――あっ!!」


 動揺したニコレットが叫んでしまった瞬間、パスカルは冷静な表情で頷いた。


「ええ。ニコレット様のおっしゃる通りこの毒には、強い毒性はありません。ただし、摂取量によっては猛毒となります」


 パスカルがランベールの護衛に目線を送る。すると護衛の一人が、複数の小瓶を持って檀へ上がった。


「ちっ、違うわ、そういうつもりではなくて……! それは、その、全部を飲ませるつもりだったわけでは……っ!」


 ニコレットが必死に喋り出したのは、『聖女を騙る罪』を認めてでも、『聖竜毒殺未遂』の罪を晴らしたいからだろう。

 前者と後者では罪の重さが全く違うのだから。


「この毒は植物性のもの。薬草に詳しいアロシュ侯爵のご令嬢であれば、危険性は十分に理解できていたはずです。それにこの毒は、アロシュ侯爵の手助けがなければ手に入らない希少な物です」


 パスカルの足は震えていたが、彼女は最後までしっかりと言い切った。彼女が壇上から下りると、ランベールが再度ニコレットに近寄る。


「ニコレット・アロシュ嬢。アズナヴール王国王太子及びアズナヴール王立学園生徒会長の権限を持って、君を退学とする」

「でっ、殿下……!」

「そして聖竜様毒殺未遂の件に関しては、王立裁判所の判断に委ねよう」


 アズナヴール王立裁判所。重要な罪のみを扱う裁判所であり、裁判所の長を務めるのは王国宰相である。

 王立裁判所の判決は永久に記録され、訴えられた者は罪名を歴史に刻むこととなる。

 名誉を重んじる貴族にとって、これ以上ない辱めだ。


 それに、王立裁判所の裁判員は全員貴族。

 彼らがアロシュ侯爵家を助けようとするとはとても思えないわね。


 裁判所の裁判官を務める貴族の大半は、アロシュ侯爵家と同格以上の貴族だ。大罪の疑いをかけられ、王太子から嫌われているニコレットを助けようとする者はいないだろう。

 むしろ、嬉々としてアロシュ家の没落を願い、ライバルを減らすために動くに違いない。


「で、殿下、なっ、なにとぞご容赦を……!」


 這いつくばって頭を下げるニコレットを見下ろし、ランベールはなにも言わずに目線を外した。そして、護衛達に頼んでニコレットを連行させる。


 退学と王立裁判所への訴え。十分すぎるほどの復讐になったけど……お姉様は!?


 このままでは、本物の聖女はリディアーヌということになってしまう。


「で、殿下! あの……!」


 とうとうリディアーヌが声を上げると、待っていたと言わんばかりの笑顔でランベールが応じた。


「リディアーヌ嬢。本物の聖女である君のおかげで、聖竜様の命を狙う大罪人を捕えることができた」


 いや違うわよね!? どういうことなの!? こんなの私、全然聞いてないんだけど!


「その礼をしよう。……セレスタン!」


 ランベールに名前を呼ばれたセレスタンがどこからか現れた。彼の隣には、フードをかぶった女性が立っている。

 だがリディアーヌは、フードを外す前から彼女の正体に気がついた。


「お姉様……!?」

「ああ。皆、ここにいるのはジャネット・バリエ嬢。去年の式典で、聖女を騙った罪で退学になった令嬢だ」


 いったい何が起こるのかと、観衆たちは息を呑んでランベールを見つめている。リディアーヌだって、これからランベールがなにをするつもりなのか全く分からない。


「彼女は確かに『聖女を騙る』という罪を犯した。だがそれは、彼女はニコレット嬢が偽物だと知っていたからだ。なぜなら彼女は、妹こそが真の聖女だと知っていたのだから」

「……えっ!?」


 リディアーヌが声を漏らした瞬間、静かに、とセレスタンに耳元で囁かれた。


「しかしジャネット嬢は、ニコレット嬢が偽物だと示す証拠を持っていなかった。当時、聖女であるリディアーヌ嬢はまだ学園におらず、焦ったジャネット嬢はとっさに嘘をついてしまったのだ。『自分が聖女である』と」


 なるほど……という声が観衆の間から聞こえてくる。


 いやいや、なんで納得してるのよ! 全然納得するところじゃないわよ!?


「とはいえ、聖女を騙った罪は重い。だが……ここは本物の聖女であるリディアーヌ嬢の活躍に免じて、ジャネット嬢の復学を認めよう」


 目が合った瞬間、ランベールは柔らかく微笑んだ。あまりにも幸せそうな眼差しに、さすがのリディアーヌも一瞬で理解する。


 この男、最初からこのつもりだったんじゃない!

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