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第24話 長い夜

「……私、本当にここで朝まで過ごすのね……」


 竜舎の中は緑豊かな空間が広がっている。中でも最も草が生い茂っている地面に、リディアーヌは寝転がっていた。

 さきほどこっそりと連れてきたジャネットと話したおかげか、聖竜は上機嫌に竜舎の真ん中でごろごろと転がっている。

 ちなみにジャネットに再会した時の聖竜は、まるで犬のように彼女の周りを駆け回っていた。


 どう考えてもお姉様が聖女じゃない、あんなの。


 あの状態の聖竜を見てなお聖女ぶろうとしたのなら、ニコレットはなかなかに根性のある人間なのかもしれない。


 あと数時間すれば、飼育員が聖竜の食事を届けに竜舎へ入ってくる。まずはその飼育員を静かに捕まえ、そのまま朝を待つ。

 朝までの間に誰か他の人間がくれば、そいつも捕まえる。

 少なくとも、警備員は捕まえることになるだろう。飼育員が竜舎から出てこなければ、さすがに訝しんで中へ入ってくるだろうから。


 そして朝、式典開始前に殿下が聖竜を迎えにやってくる……という流れだ。もちろん、リディアーヌもそのまま式典に参加する。


 つまり私、今日お風呂入れないのよね。


 しかも地面に寝そべっているせいで制服も髪も汚れてしまった。風魔法と水魔法を駆使してなんとか清潔にしてから式典に出たい。


「ていうか、眠くなってきたわね」


 盛大にあくびをする。今夜はなかなかに長くなりそうだ。





 竜舎の鍵が開いて飼育員が中へ入ってきたのは、リディアーヌが暇すぎて地面に盛大な絵画を描き始めた頃だった。

 両手でなんとか抱えられるサイズの大きな皿に、聖竜の食事がどっさりと盛られている。


 皿の中に入っているのは、大量の果実と大量の草だ。パスカルの話によると、聖竜は主に『清らかな水で育てられた植物』を好むらしい。


 特におかしいところはなさそうだけど……あの草の中に毒草がまぎれていたって、私には分からないのよね。


 今日は食事をとるな、ということはジャネットを通じて聖竜に伝えてある。飼育員が聖竜の前に皿を置いても、聖竜は食事をしようとはしなかった。


「聖竜様? 具合でも悪いんですか?」


 心配そうな表情になり、飼育員は聖竜の顔を覗き込んだ。

 飼育員を務めているのは初老の男で、半分白い髪の毛を雑に帽子の中へ押し込んでいる。聖竜を触る手つきは優しく、とても悪意があるようには見えない。


 それに、代々聖竜様の世話をしている家が、下手に貴族達の争いに介入するとは思えないのよね。


 聖竜の世話係を務めるサクレ家は貴族ではないものの、国から特別な地位を認められている。特に聖職者に対して、サクレ家は膨大な影響を持つ。


 でもごめんなさい。今回の作戦では全員捕まえなきゃいけないの。


 心の中で謝って、リディアーヌは地面に小さく円を描いた。

 せめて、なるべく苦しまないように捕まえてやろう。ただ、まずは口を封じなければならない。


 草縄エルブレドコルデ


 草属性魔法の一種で、名前の通り草の縄を生み出す魔法だ。分かりやすく言えば、頑丈でどこまでも伸びるツルを生み出す魔法である。

 敵を捕縛する際に有効な魔法だが、今回は、捕縛するより先に口封じだ。


 手のひらをかかげ、指先に意識を集中させる。飼育員の目に映らないようにツルを地面に這わせ、彼が再び口を開いた瞬間、勢いよく口の中へツルをぶち込む。


「んっ―――!」


 叫ぼうとしたところでもう遅い。口の中がツルでいっぱいになっている状況では、ろくに叫ぶこともできないようだった。

 飼育員が息苦しさで地面を転がり始めたところで、今度は彼の腰にツルをまきつけて固定する。そのままツルで彼を空中へ持ち上げ、木の陰に隠した。


 あと何人くるか分かんないけど、全員、この状態で殿下が用意してくれた人達に引き渡さなきゃいけないのよね。


 つまり、飼育員を捕縛した魔法をずっと維持しつつ、これからくる人々も捕縛しなくてはならない、ということだ。


 私じゃなかったら、さすがに魔力量不足で倒れるわよ。


 リディアーヌがそっと息を吐いた瞬間、竜舎の中へ警備員二人が入ってきた。

 なかなか出てこない飼育員の様子を見にきたのだろう。

 もちろん彼らも、リディアーヌは捕まえなくてはならない。


 同時に二つの円を描く。そしてまた、リディアーヌは魔法を発動させた。

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