第23話 最終確認
『王太子殿下は、次の式典でどちらが本物の聖女かをはっきりさせるつもりらしい』
という噂が流れ始めたのは、ランベールが式典の詳細を公開した直後だった。
式典の際は、普段学園へ入ることができない民衆にも学園施設が解放される。だが民衆の興味は学園施設よりも、聖竜に向けられていることが多い。
建国の英雄竜の血を引く聖竜は憧れの存在であり、世間には代々の聖竜をモデルにした物語も多いのだ。
「二人の聖女が、聖竜の案内役を務める、ね」
ランベールが提示した流れではまず、ランベールが竜舎から聖竜を連れて現れる。聖竜見たさに待機している民衆のために、聖竜は聖女と共に学園を一周する。
前半の半周をニコレットと、後半の半周をリディアーヌと歩く予定だ。
「ああ。式典の流れとして、おかしな内容ではないだろう」
隣に座るセレスタンが大きな骨付き肉に噛みついた。学園の食堂で提供される料理は食べやすさを重視したものが多く、庶民に親しまれるようなメニューも多いのだ。
「ですわね。いつまでも聖女が二人いるままでは困る、と思っている貴族も多いでしょうし」
頷きながら、リディアーヌも自身の骨付き肉に手を伸ばした。にんにくをベースにしたソースがたっぷりとかけられていて、いくらでも食べられそうなほど美味しい。
三つではなく四つ注文するべきだった気がしてきた。
「だな」
「セレスタン様。わたくしおかわりを買ってこようかと思いますわ」
「……まだ食べるのか?」
セレスタンは目を見開いてリディアーヌを見つめた。確かに骨付き肉の前に焼き立てのパンを二つとステーキを二枚、コーンスープを二杯平らげているが、聖女はお腹が空くのだ。
「ええ。式典に備えなければなりませんもの」
「……少し待て。俺も行く」
学園の食堂はカウンターで注文する形式になっている。席からたいして離れていないのだが、セレスタンは護衛としての意識が高いらしい。
このままじゃ他に友達なんてできなさそうだけど、それも式典で終わりよね。
ニコレットが学園を去り、本物のジャネットが聖女として戻ってくる。
そうなれば、リディアーヌに嫌がらせをする連中はいなくなるだろう。それに、パスカルとも堂々と喋れるようになる。
聖女の皮を脱ぎ捨てた時、リディアーヌの華々しい学園生活が幕を開けるに違いないのだ。
◆
「おそらくニコレット様は、明日の夜、聖竜様に接触しようとするはずです」
式典前々日。作戦会議のためにラピーヌ亭に集まったのは、リディアーヌ、セレスタン、パスカルの三人だ。
ランベールは式典へ参加するために王都へやってきた貴族達の対応に追われ、とてもここへこられるような状態ではないらしい。
「根拠はあるの?」
「はい。前回と同じように毒を盛るつもりなら、前日夜の食事に混ぜてしまうのが一番いいです。聖竜様の身体的に、翌朝くらいに毒が効いてくることが多いですから。注射のような形で直接毒を体内に注入するのなら、直前になる可能性もありますが」
パスカルはテーブルの上にノートを広げた。ノートには、今回の作戦に関する情報がいろいろと書き込まれている。
「竜舎の鍵は飼育員が管理していて、夕食後は必ず鍵が閉められます。その後、朝までは二人の警備員が竜舎の前に立っていることが多いんです」
「……つまり、飼育員か警備員を買収して、聖竜様に毒を盛る可能性が高いってことかしら?」
食事の用意や管理は全て飼育員の仕事だ。飼育員は代々聖竜に使える家の人間が務めており、外部の人間が飼育員になることはない。
そう考えると、ニコレットの味方をしたのは警備員だろうか。
「……ちょっと待って? でも、鍵は飼育員が管理してるのよね? 警備員を買収したとしても、竜舎の中には入れないんじゃないの?」
「そうなんですよね……。ただ、飼育員が聖竜様を傷つける作戦に同意するとは考えにくくて……」
すいません、とパスカルは頭を下げた。
「謝る必要ないわよ。それで、どうすればいいの? 一晩中竜舎を見張っていればいいのかしら?」
「それだと、食事に毒を混ぜているかどうかは分かりません」
パスカルはそう言うと、覚悟を決めたような顔でリディアーヌを見つめてきた。
見たことがない彼女の表情に、一瞬どきっとする。
「……リディアーヌ様にしかお願いできないことがあるんです」
「なにかしら!?」
考えることは苦手だがら、やるべきことを教えてくれるのはありがたい。
「竜舎に潜んで、そこに訪れた人を全員拘束してほしいんです」
「……え?」
パスカルの口から出るとは思えない大胆すぎる発言に、リディアーヌは固まってしまった。
推理とかじゃなくて、全員捕まえるの!? それでいいんだ!?
「作戦の成功が確認できなければ、ニコレット様は朝までの間、何人もの人間を竜舎へ送り込んでくるかもしれません。ですから朝まで、聖竜様の護衛をしつつ、やってくる人間を全員捕まえてほしいんです」
「……なるほどね」
夕方から朝にかけて、何人くるかも分からない敵と戦い続ける。
確かに、リディアーヌにぴったりの役回りだ。
「ただ、騒ぎが大きくなりすぎてはいけません。全員、静かに捕まえてください」
難しい注文を付け加えると、パスカルは次にセレスタンへ視線を向けた。
「セレスタン様は、ニコレット様の逃亡を阻止してください。なんとしてでも、式典の場に彼女を引きずり出す必要がありますから」
「分かった」
「私は当日、聖女様を式典へお連れします。私が式典に最初から参加していなくても、特に問題になりませんから」
三人は目を合わせ、互いに頷き合った。
作戦の最終確認は終わった。あとはもう、実行あるのみだ。




