第22話 聖女様の配慮
「というわけでわたくし達、協力してお姉様の罪を晴らそうとしているのよ!」
リディアーヌが考えた作戦を聞くと、ジャネットはまあ……と息を漏らした。しかし、すぐに不安そうな表情になる。
「でもその作戦が成功したら、リディーが嘘をついていたこともバレてしまうわ。貴女は大丈夫なの?」
「大丈夫よ! 姉の汚名を晴らすために頑張った健気な美少女が罰せられるわけないじゃない」
「……そ、そうね」
なぜか目を逸らしながら、ジャネットが水を飲む。その隣に座る殿下は、相変わらず甘い笑みを浮かべてジャネットを見つめていた。
この作戦実行において、大変なことは大きく分けて二つだ。
一つ目は、他人にバレないようにジャネットを学園へ連れていき、式典前に聖竜とコミュニケーションをとらせること。
二つ目は、ニコレットが再び聖竜になにかをしかける証拠を手に入れること。
「やっぱりお姉様には、とりあえず私の家にきてもらうのがいいんじゃないかしら。サラドで飛んでいけば証拠も残らないし」
「リディアーヌ。竜にのって移動するなんて危険な真似、ジャネットにさせるつもりなのかい?」
殿下は目を細め、穏やかな笑顔でリディアーヌを睨んできた。
「ひっ……で、ですけど、わたくしがいれば大丈夫ですわ。それにお姉様がいれば、サラドとも意思疎通ができるので、サラドもちゃんと魔物と戦ってくれますし」
「……殿下。わたくしなら大丈夫ですわ。それに、サラドにのせてもらったことは何度かありますの」
ジャネットが微笑むと、殿下はあからさまに表情を変えた。差別である。
ジャネットの言う通り、ジャネットは何度もサラドの背にのったことがある。サラドを子分にしてからリディアーヌが入学するまでの間、サラドはバリエ家で暮らしていたのだから。
自分のせいで家に迷惑をかけてしまった、と落ち込んでいたジャネットも、サラドにのって飛んでいる時は楽しそうだった。
「……君がそういうのなら」
「はい。殿下、わたくしを心配してくれてありがとうございますわ」
ジャネットがそっと殿下の手を握ると、殿下はあからさまに白い頬を赤く染めた。
殿下、お姉様のこと本気で好きっぽいわね……。
貴族として成り上がるチャンス! なわけだが、単純には喜べない。貴族社会において、目立つというのはとにかく大変なのだ。
父もそれほど野心があるタイプではないし、王太子に見初められた娘を持て余す気がする。実際、殿下に挨拶された後、父はいきなりのことに驚いて固まっていた。
まあ、なにかあったら私がなんとかすればいい話よね!
「お姉様。お姉様が無事に聖女として認められたら、一緒に学園生活を楽しみましょ! もしお姉様に嫌がらせをする人がいたら、私が容赦なく魔法でぶっ潰すわ」
ジャネットが聖女だ、ということが認められれば、リディアーヌが聖女として振る舞う必要もなくなる。
そうすれば、学園でも堂々と魔法を使っていいはずだ。
「気持ちは嬉しいけど、だめよ。嫌がらせに力で対抗しても、また新しい争いを生んでしまうもの」
「え? だったらまたその争いで勝てばいいじゃない」
「……リディー、あのね、そういうことじゃないの」
昔から姉は揉め事を話し合いで解決しようとするが、リディアーヌとしては賛成できない。最終的に話し合いをすることになるとしても、話し合いを有利に進めるためにまずは力を示すべきだろう。
お姉様は優しすぎるのよね。やっぱり私が、お姉様を守ってあげなくちゃ!
◆
「じゃあ、お姉様。またきますわね!」
「ええ、今日は久しぶりに会えて楽しかったわ。殿下、セレスタン様、どうか妹をよろしくお願いいたします」
「もちろんだよ。それに、早くまた君が学園に通えるようになるのを楽しみにしている」
挨拶を済ませ、きた時のようにサラドに飛び乗る。
姉を迎えにくるのは式典直前だ。
「じゃあ、飛びますわね」
サラド、と名前を呼ぶ。サラドは名残惜しそうにジャネットを見つめて鳴いた後、緩やかに飛行を開始した。
行きと違って快適な空の旅になったのは、聖女が火竜に穏やかな飛行と人間の護衛を依頼し、王子二人に酔い止め薬を渡したからだ。
だがしかし、偽物聖女がその配慮に気づくことはないのであった。




