第21話 信頼できる偽物
「着きましたわ!」
久しぶりの実家は、リディアーヌが出ていった時と全く変わっていない―――なんてことはなく、なぜか以前よりも綺麗になっていた。
完璧に整備された庭、隅々まで磨かれた屋敷の壁や門。特に庭の花は、前よりも種類が増え、ずいぶんと華やかになっている。
サラドが着陸した勢いで少々燃やしてしまったことを申し訳なく思いつつ、リディアーヌは高らかに叫んだ。
「お父様、お母様、お姉様! 愛しのリディアーヌが帰還しましたわよ!」
どでかい叫び声に反応し、屋敷の扉が開いた。真っ先に飛び出してきたのはリディアーヌの姉にして本物の聖女・ジャネットである。
彼女は金色の髪を緩く編み下ろし、シンプルだが可憐な白のドレスを纏っていた。
「リディー! おかえりなさい!」
飛び出してきたジャネットは、真っ先にリディアーヌの両手を掴んだ。心配してたのよ、と思いっきりリディアーヌを抱き締めた後、リディアーヌの後ろに控えている二人に気づき、慌ててリディアーヌから離れる。
「でっ、殿下……!? セレスタン様もっ!?」
「お姉様にお話ししたいことがあって、お二人をお連れしたのよ」
「……もしかして、サラドにのせて?」
「ええ」
「リディー、貴女、さすがにそれは……っ!」
ジャネットは盛大に頭を抱え、地面にしゃがみ込んだ。頼んできたのは殿下なのだが、やはりなかなかに問題がある行動だったらしい。
途中でフラムバードに襲われたなんて話したら、お姉様、倒れちゃうかもしれないわね。
「ジャネット。気に病む必要はないよ。私が無理を言って君の妹君にお願いしたんだから」
背後から聞こえてきたやたらと甘ったるい声に驚いて振り向く。先程まで大量の汗をかいて無表情になっていたランベールが、今は砂糖菓子も逃げ出すほど甘い笑みを浮かべていた。
え!? 誰これ!?
殿下って、どことなく胡散臭いイケメンじゃなかったの!?
「で、殿下、ですが……」
「どうしても君に会いたくて。それに今日は、私達のこれからの話をしにきたんだ」
「……これからの?」
いやお姉様の汚名を晴らすための作戦を伝えにきたんですけどっ!?
「でもその前に、まずは久しぶりに君とゆっくり話したいな」
「……殿下」
「それに、君のご両親にもきちんと話をしないとね」
ランベールは自然な流れでジャネットの腰に腕を回し、屋敷の中へ入っていった。
「……セレスタン様。これはいったい、どういうことですの?」
「見ての通りだ」
「それじゃ分からないから聞いてるんじゃない!」
「……兄上はジャネット嬢が好きなんだ。それも、かなり熱烈に」
セレスタンは盛大に溜息を吐くと、ああ……と唸りながら地面にしゃがみ込んだ。
「……この際だから言うが、兄上はかなりニコレット嬢を恨んでいてな。実は『ニコカス』という呼称を初めて聞いたのはお前からじゃない」
「そ、それって……」
「ああ。お前の想像通りだ。兄上はニコレット嬢をニコカスと呼んでいるし、彼女をイメージして作った藁人形に釘を打ち込んだりもしている」
「いやそこまで想像してませんわよっ!?」
落ち着いた冷静なタイプの人だと思ってたけど、かなりやばい奴じゃない……!
「だから兄上は、最初からジャネット嬢が聖女だと確信していた。だから俺達はリディアーヌ嬢が現れた時、まずお前がジャネット嬢の味方かどうかを知りたかったんだ」
「……そうだったのね」
「ああ。姉妹だから仲がいいとは限らないからな。だがジャネット嬢はよくお前の話を楽しそうにしていた。それに聞いていたイメージと全く同じだったから、俺達はお前を信頼できる偽物だと判断したんだ」
じゃあ、初対面の時に嘘をついてまで聖女ぶったの、完全に無意味だったんじゃない!
ジャネットに妬まれていて、と適当に嘘をついた過去の自分が恥ずかしくなってきた。
「一応聞いておきますけど、お姉様から聞いていたわたくしのイメージはどんなものだったんですの?」
「……野蛮で乱暴、考えなしの魔法使い」
「それただの悪口じゃありませんことっ!?」
思わず詰め寄ると、セレスタンはわずかに目を逸らしながら話を続けた。
「話からそう判断した、というだけだ。ジャネット嬢は『素直で元気な可愛い女の子』と言っていたぞ」
「まあ、お姉様ったらわたくしをよく理解していますわね!」
「……」
「ちょっとその顔やめていただけます!?」
腹立たしい男だ。
それにどうやら、王太子殿下もなかなかにやばそうな男らしい。
でも、まあ……お姉様を選ぶなんて、殿下は女性の好みに関しては完璧みたいね。




