表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
20/28

第20話 王子様達との空の旅

「今日は私も同行しようかと思って。セレスタンに無理を言って連れてきてもらったんだ」

「……そ、そうだったんですのね……」


 嘘だ。絶対あのブラコン男、秒で頷いたに決まっている。


「でもあの、今日は陸路ではなく、火竜に乗って領地へ帰ろうかと思っていたんですの」


 アズナヴール王国における一般的な移動手段は徒歩と馬車だ。貴族や裕福な商人は個人で馬車を保有しているが、庶民向けの寄り合い馬車も多く走っている。

 殿下ともなれば、個人馬車でしか移動したことはないだろう。


「君の火竜は二人乗りなのかい?」

「え? あ、いや……」

「だとすれば問題ないね。もし二人乗りなら、セレスタンには我慢してもらうしかないかな」

「さ、三人乗りですわ!」


 セレスタンともまだ十分に関係が深まったとは言い難いが、殿下と二人きりにされるのは困る。


 だってこの人、いまいちなに考えてるか分かんないんだもの……!


「ただ、火竜はかなり揺れますわ。セレスタン様もかなり酔っていましたし。それに、領地へ帰るルートだと、魔物に遭遇してしまう可能性もあるのですけれど……」

「問題ないよ。危なければ君が守ってくれるだろう?」

「……かしこまりましたわ」


 できればせめて殿下だけは陸路できてほしかったが、これ以上ごねても意味はなさそうだ。


「じゃあ行こうか。時間がもったいないから」


 笑顔で言うと、殿下は再びフードを目深にかぶったのだった。





「落下だけは避けてくださいませ」


 サラドにのり、首筋を撫でて合図をする。

 会話ができれば『実家へ頼みますわ』とだけ頼んであとは居眠りをかましていてもいいわけだが、そういうわけにはいかない。


 竜と会話ができないリディアーヌは、いちいち進む方向を腕で示すしかないのである。


「サラド。あっちよあっち。ほら、あの山。一番でっかいやつね!」


 言葉が通じていないことは分かっているが、喋りながら実家のある方角を示す。

 ぎゅる! と大きく鳴いて、サラドは飛行を開始した。





「前方からフラムバードが数羽、飛んできますわ。お二人とも、顔を伏せてくださいまし!」


 フラムバードとは、その名の通り炎を宿した鳥型の魔物である。尖った嘴と赤い羽根が特徴的な小さな魔物だ。

 空中を浮遊するため身体は軽く一羽単体の攻撃力は低いものの、基本的に集団で行動している。


 サラドと一緒にいる時って、竜種に怯えて中級以上の魔物は滅多に絡んでこないのよね。


 挑んでくる魔物は、竜種をものともしない強力な魔物か、フラムバードのように知能が低い下級魔物のどちらかだ。


「クァ! クァ!」

「クァー!」


 鳴きながら、フラムバードが口から火を噴く。たいした威力ではないが、ちょこまかと動き回られると鬱陶しい。

 空中で小回りがきくフラムバードと違って、サラドの上にいるリディアーヌ達は身動きがとりにくいのだ。


 サラドが撃退してくれれば早いのだが、炎属性の魔物が相手の場合、小さな攻撃ではサラドが敵として認識してくれない。

 今だって、フラムバードが吐いた炎を平気で浴びながら、心地よさそうに飛び続けているくらいだ。


「ちょっと濡れるかもしれませんけど、ご容赦くださいまし!」


 一応叫んでから、空中に魔法陣を描く。

 発動するのは水魔法だ。サラドにも嫌がられるだろうが、仕方ない。


「雑魚はまとめてドッカーン! ですわ!」


 魔法陣から大量の水が溢れ、勢いよくフラムバードへ飛んでいく。

 大気中の水分を集めて水にする、という水魔法の基本だ。そこにリディアーヌの膨大な魔力を織り交ぜ、大砲のように勢いよく飛ばしたのだ。


「クァッ! クァッ!」


 水を浴びたフラムバードが、悲惨な鳴き声をあげながら去っていく。火属性の魔物にとって水は天敵なのだ。


「ぎゅるるっ……!」


 だから、サラドもこうなっちゃうわよね。


「殿下、セレスタン様。次は熱くなりますが、我慢してください。空中でこの子の機嫌を損ねると面倒ですもの」


 首筋を撫でた後、今度は火属性の魔法を発動する。今度は小さな火球を作る魔法だ。サラドの周りに十個ほど火球を飛ばすと、機嫌よくきゅるきゅると鳴いてくれた。


「……さすがに暑いわね」


 溜息を吐いて、こっそり小さな円を描く。


 風結界ヴァン・バリエ


 バリエ家の名前を冠するこの魔法は、サラドを子分にした後、リディアーヌが独自に生み出した魔法だ。

 薄い風の膜を全身に纏うことで、周囲の熱を感じないようにする。火竜と生活を共にするにあたっては、必須の魔法と言ってよい。


 ただ問題は、細かい魔法操作技術が必要になる上に、自分以外に使えないことだ。訓練を重ねればどうにかなるだろうが、今の技術では難しい。


 だから今日は使わずにいたんだけど……ま、仕方ないわよね。


 リディアーヌが風結界ヴァン・バリエを使っても使わなくても、殿下とセレスタンが暑い思いをするのは変わらない。

 それに淑女として、男性の前で汗をかかない方がいいはずである。


 かくして麗しき偽聖女と汗だくの王子二人は、バリエ伯領へ向かったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ