第18話 作戦決定
「「毒……?」」
驚いたのはリディアーヌだけではない。セレスタンも目を見開き、パスカルをじっと見つめた。
二人に見つめられても、彼女は全く表情を変えない。
思ってたより、かなり度胸がある子なのかも……。
「はい。ですからあの式典の日、聖竜様は取り乱していたのです。よく見れば分かるかと思いますよ。瞳孔の開き具合、手足の置き方、尻尾を動かす頻度……どこをとっても、聖竜様の様子は異常でしたから」
どこをとっても、というわりにはマニアックな部分を上げつつパスカルは頷いた。
彼女にとって、聖竜が毒を盛られていた、という事実はあくまでも自明の出来事なのだろう。
「全ての竜を愛する私としては、聖竜様には聖女様といてほしい。ですから本当は、事実をお伝えしたかったんです」
「どうしてしなかったのよ!?」
その日、パスカルが本当のことを口にしていたら、姉は偽物の汚名を着せられずに済んだのに。
「殿下が、聖女様をお庇いにならなかったからです」
「……えっ?」
「私の見る限り、王太子殿下は聖女様と親しくしていらっしゃいました。それこそ、ニコレット様が嫉妬してくだらない嫌がらせをするくらいには」
「……お姉様、嫌がらせをされてたの?」
「同学年の女生徒のほとんどは、彼女と口をきくなと言われていましたね」
リディアーヌから目を逸らしつつ、ばつが悪そうにパスカルが言った。
お姉様が、同学年の女子ほぼ全員から無視されていた?
お姉様、一言だってそんなこと言わなかったじゃない……っ!
言ってくれたら、私が全員ぶっ倒してやったのに!
「そんな殿下ですら、聖女様を庇わなかったのです。その状況で私がなにか言えば、学園に私の居場所はなくなる―――どころか、父の立場が危うくなることは明らかでした」
「……父?」
「ええ。私の父は、五年前に子爵になったばかりですから」
「子爵になった……? あっ!!」
今の発言で、ようやく思い出した。
グラッセ子爵家といえば、五年前に爵位を与えられ、新たに誕生した家だ。確か、当主の魔物研究が高く評価された、という話ではなかったか。
「ですので、私の味方をしてくれる貴族などいません。加えてニコレット様の実家であるアロシュ侯爵家は近年薬草の栽培で儲けており、当主である父親は王立研究所の名誉顧問を務めています」
「……なるほどね」
その状況で、家族でも友人でもないジャネットの味方をしろ、というのは無理に決まっている。
リディアーヌへ嫌がらせをしてきたのも、ニコレットに逆らえなかったからに違いない。
だが今日、彼女の中で状況が変わったのだ。
リディアーヌが、セレスタンを連れてきたから。
「パスカルさんの状況は、よーく分かりましたわ。ついでに、セレスタン様や殿下のご事情も」
リディアーヌが姉や実家の名誉を取り戻そうとしているように、彼女達にも事情がある。
だが今、皆の目的は一致した。
「力を合わせて、ニコカスの嘘を白日の下に晒してやりますわよ!」
「ニコカス……?」
「カスのことですわ」
分かりきった説明をパスカルにした後、リディアーヌは放置していたジュースを飲みながら考え始めた。
どうすれば、ニコカスに最大限恥をかかせることができるのか。
どうすれば、皆がニコカスが偽物だと信じてくれるのか。
あいつの実家、アロシュ侯爵家はかなりの名家なのよね。だから裏でいろいろと頑張っても、表向きに否定されない限り、ニコカスが聖女として扱われてしまう。
だからこそ、堂々と、大胆に、彼女が偽物であると証明する必要がある。
「決めましたわ」
ドン! と机をたたく。ひっ、とパスカルが怯えた声を出し、セレスタンがわずかにこぼれたジュースを見て溜息を吐いた。
「ニコカスには、お姉様と同じ状況で恥をかいてもらいましょう」
学園では、年に四回、季節の変わり目ごとに式典が開かれる。
式典には学園の生徒だけでなく、王都で暮らす人々も参加できる仕組みだ。
「次の式典で、わたくし、ニコカスにとびっきりの恥をかかせてやりますわっ!」




