第15話 ラピーヌ亭へ
「ふふ、ずいぶんと顔色が悪いですわね、セレスタン様?」
サラドがいつもの場所へ降りた瞬間、セレスタンは転がるようにサラドから下りた。すっかり青白くなった顔は、酔ったとしか思えない。
「聖女様の護衛が竜に乗るだけで酔うなんて、情けないですわね」
さんざん『聖女らしくない』と馬鹿にされたのだ。これくらい言い返してもいいだろう、と思ったのだが、かなりきつく睨まれてしまった。
この男、不愛想な上にノリも悪いらしい。厄介な男である。
「……冗談じゃない。具合が悪いなら薬でも買ってくるわよ?」
王都にはいろいろな店がある。まだ場所は把握していないが、おそらく薬屋もあるだろう。
セレスタンに近寄り、顔色を確認する。ずいぶんと身長差があるのだな、ということに今さらながら気がついた。
「この程度、問題ない」
「ならいいけど……」
「それよりラピーヌ亭へ行くんだろう。ついてこい、こっちだ」
セレスタンはふらつきながら歩き出した。
◆
「この通りは貴族が利用する店が多い。常連以外利用できない店も多いから、気をつけるんだな」
セレスタンに連れられてきたのは、王都の中央からは少しはずれた通りだった。落ち着いた造りの建物が多く、人通りは少ない。
料亭の他に、宿屋らしき建物もある。どうやら、貴族達が逢引に使う、というのは正しい情報らしい。
そういえば、学園では色恋沙汰の問題がたまに起こる、とお姉さまが言っていたわね。
昔ほどではないが、現在も貴族の中では政略結婚が主流だ。そのため、異性間の交流は基本的に制限されている。
だが、学園生活に親の目はない。貴族の人生において、最も自由に過ごせるのが学園生活なのだ。
「セレスタン様はよく利用しますの?」
「リディアーヌ嬢はもっとデリカシーを持ったらどうだ?」
「素直さが愛らしいとよく言われておりますの」
「……まあ、分かりやすくていいか」
歩きながら、たまにな、とセレスタンは教えてくれた。といってもこのブラコン王子、兄としか利用することはないらしい。
確かに恋愛に限らず、人の目がつかない場所で過ごしたい時はあるものね。
私だって、だから一人暮らしをすることにしたんだし。
納得している間に、ラピーヌ亭に到着した。真っ白な壁に、薄桃色の屋根。こじんまりとした店だが、中からもれる薄オレンジ色の照明が上品だ。
扉を開けると、ウェイターらしき女性が近づいてきた。客席は全て個室になっているようで、入口から他の客の姿を見ることはできない。
「いらっしゃいませ。お名前をお伺いしてもいいでしょうか」
「リディアーヌ、ですけれど……」
相手の名前は知らない。大丈夫だろうかと少し心配したが、ウェイターは明るい笑顔で頷いてくれた。
「お待ちしておりました。こちらです」
ウェイターが案内してくれたのは、店の裏庭に建てられた離れだった。
「では、後ほどお料理をお持ちいたします」
丁寧に頭を下げ、ウェイターが去っていく。リディアーヌが離れの扉に手をかけようとすると、セレスタンが先に手を伸ばした。
「俺が開ける。俺は護衛係だからな」
「……」
「その顔をやめろ。魔法では負けるが、俺はそれなりに腕が立つ剣士なんだぞ」
「確かに言われてみれば、いい身体をしてますわね」
背が高いだけでなく、セレスタンはしっかりと筋肉もある。制服越しでも、鍛えているのが分かった。
リディアーヌも多少は武術の心得があるが、まだまだ鍛錬は足りない。
「開けるぞ」
「ええ」
セレスタンがゆっくりと扉を開ける。ぴょんぴょんと跳ねて、彼の背中越しに離れの中を覗き込んだ。
「もっ、申し訳ありませんでしたっ!!」
扉が開いた瞬間に見事な土下座を披露したのは、先日リディアーヌに水をかけてきた草属性の少女であった。




