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第15話 ラピーヌ亭へ

「ふふ、ずいぶんと顔色が悪いですわね、セレスタン様?」


 サラドがいつもの場所へ降りた瞬間、セレスタンは転がるようにサラドから下りた。すっかり青白くなった顔は、酔ったとしか思えない。


「聖女様の護衛が竜に乗るだけで酔うなんて、情けないですわね」


 さんざん『聖女らしくない』と馬鹿にされたのだ。これくらい言い返してもいいだろう、と思ったのだが、かなりきつく睨まれてしまった。


 この男、不愛想な上にノリも悪いらしい。厄介な男である。


「……冗談じゃない。具合が悪いなら薬でも買ってくるわよ?」


 王都にはいろいろな店がある。まだ場所は把握していないが、おそらく薬屋もあるだろう。

 セレスタンに近寄り、顔色を確認する。ずいぶんと身長差があるのだな、ということに今さらながら気がついた。


「この程度、問題ない」

「ならいいけど……」

「それよりラピーヌ亭へ行くんだろう。ついてこい、こっちだ」


 セレスタンはふらつきながら歩き出した。





「この通りは貴族が利用する店が多い。常連以外利用できない店も多いから、気をつけるんだな」


 セレスタンに連れられてきたのは、王都の中央からは少しはずれた通りだった。落ち着いた造りの建物が多く、人通りは少ない。

 料亭の他に、宿屋らしき建物もある。どうやら、貴族達が逢引に使う、というのは正しい情報らしい。


 そういえば、学園では色恋沙汰の問題がたまに起こる、とお姉さまが言っていたわね。


 昔ほどではないが、現在も貴族の中では政略結婚が主流だ。そのため、異性間の交流は基本的に制限されている。

 だが、学園生活に親の目はない。貴族の人生において、最も自由に過ごせるのが学園生活なのだ。


「セレスタン様はよく利用しますの?」

「リディアーヌ嬢はもっとデリカシーを持ったらどうだ?」

「素直さが愛らしいとよく言われておりますの」

「……まあ、分かりやすくていいか」


 歩きながら、たまにな、とセレスタンは教えてくれた。といってもこのブラコン王子、兄としか利用することはないらしい。


 確かに恋愛に限らず、人の目がつかない場所で過ごしたい時はあるものね。

 私だって、だから一人暮らしをすることにしたんだし。


 納得している間に、ラピーヌ亭に到着した。真っ白な壁に、薄桃色の屋根。こじんまりとした店だが、中からもれる薄オレンジ色の照明が上品だ。

 扉を開けると、ウェイターらしき女性が近づいてきた。客席は全て個室になっているようで、入口から他の客の姿を見ることはできない。


「いらっしゃいませ。お名前をお伺いしてもいいでしょうか」

「リディアーヌ、ですけれど……」


 相手の名前は知らない。大丈夫だろうかと少し心配したが、ウェイターは明るい笑顔で頷いてくれた。


「お待ちしておりました。こちらです」


 ウェイターが案内してくれたのは、店の裏庭に建てられた離れだった。


「では、後ほどお料理をお持ちいたします」


 丁寧に頭を下げ、ウェイターが去っていく。リディアーヌが離れの扉に手をかけようとすると、セレスタンが先に手を伸ばした。


「俺が開ける。俺は護衛係だからな」

「……」

「その顔をやめろ。魔法では負けるが、俺はそれなりに腕が立つ剣士なんだぞ」

「確かに言われてみれば、いい身体をしてますわね」


 背が高いだけでなく、セレスタンはしっかりと筋肉もある。制服越しでも、鍛えているのが分かった。


 リディアーヌも多少は武術の心得があるが、まだまだ鍛錬は足りない。


「開けるぞ」

「ええ」


 セレスタンがゆっくりと扉を開ける。ぴょんぴょんと跳ねて、彼の背中越しに離れの中を覗き込んだ。


「もっ、申し訳ありませんでしたっ!!」


 扉が開いた瞬間に見事な土下座を披露したのは、先日リディアーヌに水をかけてきた草属性の少女であった。

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