第13話 王子様達の事情
「私、誰かに護衛されるほど弱くありませんけどっ!?」
「……真っ先にでてくる言葉がそれか?」
「あっ……!」
まずい。あり得ない提案を受けたせいで、とっさに素が出てしまった。
「おっ、お守りいただけるなんて嬉しすぎて超絶安心しますわっ!」
「……リディアーヌ嬢」
「はいですわ!」
「分かっているかと思うが、お前のそれは違和感しかないぞ」
セレスタンは呆れたように溜息を吐いた。リディアーヌを見つめる眼差しには、哀れみが滲んでいる気がする。
なによこいつ……! 私が頑張って聖女ぶってるっていうのに! そりゃあお姉様に比べたら、聖女っぽさが三割くらいは足りないかもしれないけどさあ!
「わ、わたくしは聖女ですわ。聖女ぶって等いません」
「聖女は魔法を使えない。お前はさっき、短縮魔法陣で風魔法を発動させていたな。しかも、とっさに発動するにしては魔力操作がかなり丁寧だった。違うか?」
「……」
反論する気も起きないほどの正論に、リディアーヌは立ち上がった。どうしたんだと眺めてくるセレスタンに、慌てて頭を下げる。
「お願いします! こ、このことはどうか御内密に……! き、気に入らない相手への攻撃とか手伝いますからっ! 私、こう見えて戦闘は得意なんです!」
「……そうとしか見えないが」
うら若き乙女に失礼な発言をした後、顔を上げろ、とセレスタンがリディアーヌの肩を叩いた。
「俺達は元々、リディアーヌ嬢が偽物であることを知っていた。もちろん、ニコレット嬢が偽物であることもな」
「……はい?」
「本物の聖女はジャネット嬢だろう」
「はあ!? どういうこと!? だったらなんでお姉様を退学にしたのよっ!?」
大声で詰め寄ると、セレスタンは気まずそうに目を逸らした。
「……ニコレット嬢は、アロシュ家の娘だ。証拠もなしに彼女の言い分を否定することはできない」
「なによそれ! アンタ達王家の人間でしょ!?」
いくらアロシュ侯爵家が名門中の名門とはいえ、王太子殿下とその弟がそこまで気を遣う必要があるのだろうか。
聖女を騙るなんて、貴族としてあるまじきことだというのに。
「リディアーヌ嬢は、現在の王家の立場について正しく理解しているか?」
「まったくよ」
「……胸を張って言われると清々しいな」
そう呟くと、セレスタンは初めて笑った。不愛想な男だと思っていたが、どうやら笑うことはできるらしい。ずいぶんとぎこちない笑顔ではあったけれども。
「アズナヴール王家の財政は今、芳しくない。加えて、兄上の母親は異国の姫だ。国内貴族の後ろ盾はない。アロシュ侯爵家を始めとする貴族連中に対して、強く出られるような状況じゃないんだ」
「……聞いたことある、かも……」
リディアーヌも貴族令嬢だ。貴族達のパーティーに参加したことはある。いつも料理にばかり夢中になっていて人の話はあまり聞いていなかったが、知識がゼロなわけじゃない。
アズナヴール王国はそもそも、大陸中央に位置する小国で、これといった特産品はない。交易の場として栄えている国で、近隣諸国との関係がかなり重要だ。
そんな中、現在の国王は北方に隣接するシュネスト帝国の四女を王妃として迎えた。
その人が王太子殿下の母親で、陛下はシュネスト帝国を気にして他の妻を娶れなくなって……って、あれ?
「じゃあ、セレスタン様の母親は?」
確か王妃は病弱で、ランベール王太子殿下を出産後は身体を休めていたはずだ。しかも二人は兄弟なのに同学年である。
双子には見えないし、殿下が双子だったなんて聞いたことないし。
「直接聞かれたのは初めてだ。本当に知らないんだな」
「ええ」
「……母親は知らない。平民の女だったらしいが」
感情の読めない声で言うと、とにかく、とセレスタンは両手を叩いた。
「俺達はジャネット嬢が本物の聖女だと知っている。ニコレット嬢が嘘をついていることも、お前が姉のために聖女ぶっていることも」
「……そうだったのね」
「ああ。もう少し見守ろうかと思っていたが、これ以上お前のへたくそな演技は見ていられない」
必死に頑張ってきたリディアーヌに対し、失礼極まりない発言だ。多少おしとやかさに欠けていたかもしれないけれど、精一杯頑張っていたのに。
リディアーヌが不貞腐れていると、セレスタンがまっすぐに右手を差し出してきた。
「俺達は、お前と協力してジャネット嬢の冤罪を晴らしたいと思っている。協力してくれるか?」
まだ、セレスタンのことを信頼したわけではない。だがこの状況で、彼の申し出を断る利点はないだろう。
それに、なにかあったら戦えばいいんだし。
頷いて、リディアーヌはセレスタンの手を握った。




