第12話 ブラコン王子、再登場
あのメッセージ、いったい何なのかしら?
授業を受けながら、考えるのはロッカーに刻まれていたメッセージのことばかりだ。
そもそもラピーヌ亭、という店をリディアーヌは知らないが、おそらく王都にある料亭のことだろう。
料亭は格式高い店も多く、個室で食事を楽しめるのが売りだ。そのため、身分が高い貴族がお忍びで利用したり、逢引や不倫、密談の場に使われることが多い。
私をおびき出して直接的な嫌がらせをするってこと?
罠、と考えるのが自然かもしれない。しかし、あんな風に呼び出されれば、気になってしまうのがリディアーヌである。
まあ、行くだけ行けばいいわよね。なにかあっても、最悪魔法でどうにかなるんだもの。
◆
「きゃーっ! あ、危ないっ……!」
昼休み。食堂へ行くために階段を下りたところで、頭上から悲鳴が聞こえてきた。
とっさに顔を上げると、頭上から降ってきているのは大量の角材だった。
まず……っ!
つい、リディアーヌは風魔法を発動してしまった。角材が緩やかに一瞬舞い上がり、そっと地面に着地する。
明らかに、自然法則に反した動きだった。
「……え、今の……」
近くを通っていた生徒が、呆然とした表情でリディアーヌを見つめた。
魔法陣を描くところは見られていないだろうが、今の状況は明らかにリディアーヌが魔法を使ったとしか思えないはずだ。
どうしよう。魔法を使えることがバレたら、私が聖女じゃないってバレちゃう……!
目撃者を全員消す? いやいや、さすがにそんなに物騒なことはできないし……!
「あ、あの、今のは……」
なにか上手い言い訳をしなくては、と思ってもなにも浮かんでこない。
額から大量の汗がこぼれ落ちる。
やばい、やばい、超やばい。
こんなの言い逃れできないじゃん!
「間に合ってよかった」
いきなり聞こえてきたのは、わずかに聞き覚えのある低い声。やたらと色気のある声は確か――。
「セレスタン様……!?」
リディアーヌを生徒会室に呼び出した、ブラコン男である。
セレスタンはリディアーヌに近づいてくると、いきなり肩を抱き寄せた。
「俺がとっさに魔法を使っていなかったら、大変なことになっていたぞ」
怒りをにじませた声で言うと、セレスタンは階段上にいた生徒を睨みつけた。
「ごっ、ご、ごめんなさいっ、きゅ、急に滑って……!」
どうやら、角材を運んでいた生徒が転んでしまったらしい。授業で使う物ではないが、この学園は部活動も盛んだ。美術部かなにかの生徒なのだろう。
――ただこれ、明らかに私めがけて落ちてきたのよね。
事故と言い切るには、あまりにも不自然ではないだろうか。
「今後似たようなことがあれば、過失・故意に関わらず正式に処分を行う。いいな?」
「は、はい……っ!」
セレスタンに睨まれ、生徒はそそくさと逃げて行った。
そして、セレスタンに無言でなにかを促される。
「た、助けていただいてありがとうございます……?」
他人の目は誤魔化せたかもしれないが、リディアーヌ自身には分かっている。先程魔法を発動したのは、間違いなくリディアーヌ本人だ。
「ああ」
頷くと、セレスタンはリディアーヌの腕を掴んだ。
「ちょっとこい」
紳士らしからぬ強引さであった。
◆
連れて行かれた先は生徒会室だった。ランベールは席を外しているようで、部屋の中には二人しかいない。
「……さっきは災難だったな」
ソファーに座ると、セレスタンはそう口にした。
「え、ええ……」
どうしよう。気まずいわ。
っていうかさっき、セレスタン様は私をかばったのよね? つまりセレスタン様は、私が聖女じゃないことを知ってるってこと?
にも関わらず、偽物め! と怒っている様子はない。
いったい、なにを考えているのだろう。
「リディアーヌ嬢」
「は、はいっ、はいですわっ!」
「……もう、俺の前で聖女ぶる必要はないぞ」
「……」
やっぱりバレてたじゃない!!
「えっと、その、それはその……」
「兄上から話を聞いた。現在、リディアーヌ嬢がニコレット嬢派の令嬢達から嫌がらせを受けていると」
「あ……」
あの時は流されたかと思っていたが、ランベールはきちんとリディアーヌへの嫌がらせを認識していたらしい。
殿下は別に、ニコカスの仲間ではないってこと……?
「兄上は言っていた。なにかあれば、リディアーヌ嬢は魔法を使うだろう、とな」
「そ、それは……」
「だが、リディアーヌ嬢が魔法を使える、と知られてはまずい」
「……え?」
それって、私の事情じゃない? 王太子殿下達はなんで、私が魔法を使えることが周囲に知られたらまずいの?
頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになる。実はリディアーヌ、あまり考えるのが得意ではないのだ。
「そこで、俺は兄上から任務を受けた」
「任務……」
「セレスタン・アズナヴール。今日から俺は、リディアーヌ・バリエを護衛する」




