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第12話 ブラコン王子、再登場

 あのメッセージ、いったい何なのかしら?


 授業を受けながら、考えるのはロッカーに刻まれていたメッセージのことばかりだ。

 そもそもラピーヌ亭、という店をリディアーヌは知らないが、おそらく王都にある料亭のことだろう。


 料亭は格式高い店も多く、個室で食事を楽しめるのが売りだ。そのため、身分が高い貴族がお忍びで利用したり、逢引や不倫、密談の場に使われることが多い。


 私をおびき出して直接的な嫌がらせをするってこと?


 罠、と考えるのが自然かもしれない。しかし、あんな風に呼び出されれば、気になってしまうのがリディアーヌである。


 まあ、行くだけ行けばいいわよね。なにかあっても、最悪魔法でどうにかなるんだもの。





「きゃーっ! あ、危ないっ……!」


 昼休み。食堂へ行くために階段を下りたところで、頭上から悲鳴が聞こえてきた。

 とっさに顔を上げると、頭上から降ってきているのは大量の角材だった。


 まず……っ!


 つい、リディアーヌは風魔法を発動してしまった。角材が緩やかに一瞬舞い上がり、そっと地面に着地する。

 明らかに、自然法則に反した動きだった。


「……え、今の……」


 近くを通っていた生徒が、呆然とした表情でリディアーヌを見つめた。

 魔法陣を描くところは見られていないだろうが、今の状況は明らかにリディアーヌが魔法を使ったとしか思えないはずだ。


 どうしよう。魔法を使えることがバレたら、私が聖女じゃないってバレちゃう……!

 目撃者を全員消す? いやいや、さすがにそんなに物騒なことはできないし……!


「あ、あの、今のは……」


 なにか上手い言い訳をしなくては、と思ってもなにも浮かんでこない。

 額から大量の汗がこぼれ落ちる。


 やばい、やばい、超やばい。

 こんなの言い逃れできないじゃん!


「間に合ってよかった」


 いきなり聞こえてきたのは、わずかに聞き覚えのある低い声。やたらと色気のある声は確か――。


「セレスタン様……!?」


 リディアーヌを生徒会室に呼び出した、ブラコン男である。

 セレスタンはリディアーヌに近づいてくると、いきなり肩を抱き寄せた。


「俺がとっさに魔法を使っていなかったら、大変なことになっていたぞ」


 怒りをにじませた声で言うと、セレスタンは階段上にいた生徒を睨みつけた。


「ごっ、ご、ごめんなさいっ、きゅ、急に滑って……!」


 どうやら、角材を運んでいた生徒が転んでしまったらしい。授業で使う物ではないが、この学園は部活動も盛んだ。美術部かなにかの生徒なのだろう。


 ――ただこれ、明らかに私めがけて落ちてきたのよね。


 事故と言い切るには、あまりにも不自然ではないだろうか。


「今後似たようなことがあれば、過失・故意に関わらず正式に処分を行う。いいな?」

「は、はい……っ!」


 セレスタンに睨まれ、生徒はそそくさと逃げて行った。

 そして、セレスタンに無言でなにかを促される。


「た、助けていただいてありがとうございます……?」


 他人の目は誤魔化せたかもしれないが、リディアーヌ自身には分かっている。先程魔法を発動したのは、間違いなくリディアーヌ本人だ。


「ああ」


 頷くと、セレスタンはリディアーヌの腕を掴んだ。


「ちょっとこい」


 紳士らしからぬ強引さであった。





 連れて行かれた先は生徒会室だった。ランベールは席を外しているようで、部屋の中には二人しかいない。


「……さっきは災難だったな」


 ソファーに座ると、セレスタンはそう口にした。


「え、ええ……」


 どうしよう。気まずいわ。

 っていうかさっき、セレスタン様は私をかばったのよね? つまりセレスタン様は、私が聖女じゃないことを知ってるってこと?


 にも関わらず、偽物め! と怒っている様子はない。

 いったい、なにを考えているのだろう。


「リディアーヌ嬢」

「は、はいっ、はいですわっ!」

「……もう、俺の前で聖女ぶる必要はないぞ」

「……」


 やっぱりバレてたじゃない!!


「えっと、その、それはその……」

「兄上から話を聞いた。現在、リディアーヌ嬢がニコレット嬢派の令嬢達から嫌がらせを受けていると」

「あ……」


 あの時は流されたかと思っていたが、ランベールはきちんとリディアーヌへの嫌がらせを認識していたらしい。


 殿下は別に、ニコカスの仲間ではないってこと……?


「兄上は言っていた。なにかあれば、リディアーヌ嬢は魔法を使うだろう、とな」

「そ、それは……」

「だが、リディアーヌ嬢が魔法を使える、と知られてはまずい」

「……え?」


 それって、私の事情じゃない? 王太子殿下達はなんで、私が魔法を使えることが周囲に知られたらまずいの?


 頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになる。実はリディアーヌ、あまり考えるのが得意ではないのだ。


「そこで、俺は兄上から任務を受けた」

「任務……」

「セレスタン・アズナヴール。今日から俺は、リディアーヌ・バリエを護衛する」

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