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第10話 草属性の少女

「じゃ、じゃあまた……」

「……くぅーん」


 リディアーヌが竜舎を出る直前に手を振ると、聖竜はなんとも情けない声を出した。


 完全に懐かれてる。これ、完全に懐かれてるわ。


 特になにをしたわけでもないのに、聖竜はリディアーヌに対して終始甘えてきた。本当に臭い物が好きなのかもしれない。


 とりあえず、風呂に入らなくてよかった、ってこと?

 これからここにくる時は毎回、風呂に入らない方がいいの?


 それはそれで少し困るな、と思いながら校門へ向かって歩き出す。今日はいろいろあったし、もう家に帰ってのんびりしよう。


「聖竜問題は解決として、あとはどうやってニコカスを……」


 今後の方針について考えていると、バシャッ、と勢いよく水が降ってきた。

 雨ではない。慌てて顔を上げると、大きなバケツを抱えた青髪の少女と目が合った。


「……え?」


 私、今、水かけられた?


 長い髪の毛を三つ編みにした少女は足も手も震えていて、眼鏡の奥の瞳は涙でいっぱいになっている。

 どう見ても、他人に水をかけた直後の顔には見えない。


「……貴女」


 水をかけられたことに対する怒りよりも、少女の不可解な表情に気を取られてしまう。リディアーヌが戸惑っていると、少女の後ろにある木陰から三人の少女が出てきた。

 いずれも制服ながら派手に着飾った令嬢達で、リディアーヌを見つめる眼差しは冷ややかである。


「ふふっ、お似合いの姿ね、偽物聖女さん?」


 どうやらリーダー格らしい赤毛の令嬢が、一歩前に出てリディアーヌを睨みつけた。


「……偽物?」

「姉妹そろって聖女を騙るなんて、バリエ家の図々しさは天下一品ね。ねえ、みんなもそう思うでしょう?」


 彼女が振り返ると、横にいた二人の令嬢が頷く。


「くだらない嫌がらせをするなんて、貴女方の品性を疑いますわ」


 リディアーヌが口を開くと、予想外だったのか令嬢達が睨みつけてきた。

 おそらく彼女達は、ニコレットの仲間なのだろう。嫌がらせがニコレットの指示によるものかまでは分からないけれど。


「サラド」


 胸ポケットからサラドを出す。大きくなったサラドを見て、ひぃっ、と令嬢達は悲鳴を上げた。


 この子で攻撃してやりたいけど、サラド、火力調整が苦手なのよね。


 全力で火炎噴射でもさせようものなら、令嬢達を丸焦げにしかねない。リディアーヌとしては別段問題はないのだが、聖女らしい振る舞いからはかけ離れてしまう。


 とはいえ、威嚇くらいはしておかなくては。


 リディアーヌは大きく手を振り上げ、空を指差した。するとサラドが翼をパタパタと一度動かした後、空に向かって炎を吐き出す。

 予想通りの火力は、傍に立っているだけで肌がひりひりと痛むほどだった。


「きゃっ……!」

「わっ、わたくしの髪が……!」


 令嬢達は慌ててリディアーヌから距離をとった。ちょっとした反撃で戸惑うくらいなら、最初からくだらない嫌がらせ等しなければいいのに。


「野蛮な人! 貴女みたいな人の嘘は、すぐ殿下にだって伝わるんだからっ!」


 そう怒鳴ると、三人組の令嬢は校舎の中へ逃げていった。

 残されたのは、リディアーヌに水をかけてきた青髪の少女だけである。


「貴女———」

「あっ、あの、その、すいません……」


 少女はいきなり土下座すると、地面に指で魔法陣を描き始めた。

 魔法陣を描くスピードは遅いが、几帳面な性格が出ているのか、正確な魔法陣である。


 これ、確か草属性の……。


「でっ、できました……っ!」


 薄緑色の光が魔法陣から放たれ、地面から緑色のツルが生えてくる。ツルが複雑に絡み合い、数秒後、タオルのようなものができあがった。


「あのこれ、水拭くのに使ってください、本当にその、申し訳ありませんでした……っ!」


 深々と頭を下げ、少女はリディアーヌにツルでできたタオルを押しつけた後、走り去っていった。


「……いや私、アンタに水かけられたんだけど……」


 追いかける気になれず、とりあえずツルのタオルで身体を拭いてみる。

 すると、通常のツルよりも吸収力が強いのか、簡単に拭けてしまった。


「植物の性質変化? あの子、草魔法の技術はなかなかね……」

「ぎゅる、きゅるる」


 気づくと、サラドがリディアーヌを心配そうに見つめていた。びしょ濡れにされたことを心配してくれたのかもしれない。


「大丈夫よ。どうせ、帰ったらすぐお風呂に入りたかったし」


 サラドの背に飛び乗る。どっと疲れが押し寄せてきた。


「魔法をぶっ放して全部解決できたら、本当に楽なのに……」

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