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里の香りが有(す)る人  作者: みつ


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7/13

第7話 努力ちゅうのやつら

 

 片重(かたおも)いの相手である、(ゆう)|里香《り|か》と解散してから塾も終えて帰宅するために清正公(せいしょうこう)駅に向かった彼、岩地(いわち)(あき)意気揚々(いきようよう)と歩きながら好きなバンドの曲をイヤホンで聴いていた。

このバンドの曲を聴き始めたのはただの打算に過ぎなかった。

1周目の時(ファーストタイム)、当時の彼には根本的に音楽を聞くという文化に全く興味が無かった。

どうやってその文化に()れるか考えている時。

()れる機会が舞い降りてくるのに対し普段なら抵抗する彼は、飛び付いてのめり込んだ。

そう。心からハマれたのだ。


 音楽を聴くという文化に引きずり込んできたバンドこそ秋が聴いている曲の作り主だ。

このバンドの名前を和訳すると‘‘働きアリ’’となる。

秋はそのバンドについて、清正公駅に着くまでにスマホで色々調べることにした。

すると、‘‘働きアリ’’は‘‘努力ちゅうのやつら’’を表現したいという想いがあることを知った。

‘‘努力ちゅうのやつら’’には色々な想いが込められていてこれが、また素晴らしいと思った秋はのめり込むようにファンになった。

その素晴らしいと思った想いは3つある。


┏          ┓

 1つ、努力厨のやつら

 2つ、努力虫のやつら

 3つ、努力中のやつら

┗          ┛


 世の中で来る日も来る日も1分1秒を惜しまずに使い切っていく。

そんな生活をして頑張っている人達を自分達の鳴らす音楽で、支えたくて創造された想いこそ‘‘努力ちゅうのやつら’’だ。


 そんな想いを持ってバンド名を考える人達が鳴らす音楽は、個性的なんて軽い言葉では片付けられる物では無いと秋は感じた。

歌詞の拘り。曲名の拘り。譜面の拘り。楽器の拘り。

全ての細部への拘りという結晶かき集めてできた物が1つの曲として、世の中に配信されていく訳だから本当に大変なのがよく分かる。

そこに気づいた時に余計にハマらされた。

特に、歌詞の拘りは考えさせられる物から感動させられる物まで本当に凄かった。


「ありがとう」という感謝の思いを俺が渡しに会いに行くよ


 シンプルだが凄く考え込まれた物となっている。

気付いた時にこんな歌詞を書ける人が存在してくれていたことに対して、ただ感謝の意を込めて秋は再生していた。

そしてもう1つある。

秋にとってこれは自分に向けられたんじゃないかと自意識過剰にすら、させられてしまう歌詞だった。


里の香りが()る人

そんなわたしの季節が(あき)でした


 秋はこの曲を聴いた時。

全く意味が分からない歌詞だと感じたが、歌詞を見ることで気付いてしまった。

侑里香の名前が浮かび上がってきて、しかもそこには自分の名前もある。


 こんなにも奇跡的なことがあるのだろうか正直考えられなかった。

そして、これは侑と上手くいく。そう確信させられる歌詞だった。

そんな歌詞を聴いて、歌詞に溺れそうになりながら歩いていたら直ぐに清正公駅に着いて気付いたら電車に乗っていた。


 清正公駅から実家の最寄り駅である広幡(ひろはた)駅まで途中の乗り換え駅である長治(ながはる)駅も含めて1時間弱ある。

電車の中は、秋にとって拠り所が他に無いような感覚にさせられる場所だった。

秋は実家に居ると、どうしても気が休まらないからだ。

だから外に居る時間だったり、電車の時間がとても尊かった。

特に、電車の中で立っていようと座っていようと自分の空間として、領域を広げているから周りから変なやつ扱いをされていると思っていた。

好きなバンドを聴いて、電車の中で声には出さないが口ずさんだりしている時もあるくらいだ。


 イヤホンで耳が塞がれる中、(かす)かにアナウンスの音が聞こえた。

「次は、長治、長治。お出口は右側です」

たまに聞き逃してしまうために秋は、安堵しながら下車をして乗り換えをした。

この時、安堵しながらも不安要素があった。

岩地母への連絡をしていたかどうかだ。

どこに居るかを、いきすぎなまでに心配性なため位置情報の共有を半ば無理やりさせられていた。

だから余計、不安になり確認すると嫌な予感は当たっていた。

急いで連絡をして、なんとか難を逃れた秋は広幡駅に向かう電車に乗り込んだ。


 広幡駅に着いたらやはり岩地母が車で迎えに来ていた。

いまだに車で迎えに来る岩地母にだけ慣れなかった秋は、思い切って質問をした。

「なんで、毎回車で迎えに来るの?」

「子供だしね! じいちゃん、ばあちゃんにも心配かけさせてるからだよ!」

「そうなんだ。わかったよ」

「うん! だから毎日、朝晩! 迎えに来るんだよ!」

「わかった。わかった」

「うん……」


 段々と高校生の時にしていた対応に自然となっていることに気付いた秋は驚いていた。

(やっと慣れてきたな)

家に着くと秋はそそくさと風呂に入りに行った。

そして、入り終わって風呂から出る時にあることを思い出した。

1周目の時(ファーストタイム)、彼は風呂をあがった後に縦読みの告白をしたのだ。

しかも、思い付きの勢いだったため洗面所で水滴が身体に付いたまま素っ裸の状態だったのを事細かに思い出した。

ただ、まだその時期では無いはずだと確信して安心をしながら自分の部屋へと向かった。


 今日はみゃー子が起きていたから絡むためにケージを開けた。

「みゃー」

まるでおかえりと言わんばかりに屈んでいる状態の秋にぶつかってきた。

「お前はほんとに甘えん坊だな」

「みゃーー!」


 少し強めな感じで返されたからうるさいと言われた気がしたが、気にせず頭を撫でていると毛が少しハゲていることに気づいた。

「またお前突っつかれて負けたのか」

みゃー子は基本ケージの中にいるが、たまにくつろぐ場所を変えさせるためにベランダに出されることがある。

ただ小心者なみゃー子は、勝てる生き物が居ない。

おそらく今日はスズメにでも頭を禿げさせられたんだろうと思って茶化した。

「みゃ」

認めざるを得ないみゃー子は小さく頷くような素振りを見せながらも、自分でケージに帰っていった。

「ごめんよ。拗ねるなよ」

謝ったがこうなるとだめな猫だから仕方なくケージを閉めてもう1度謝った。

「ほんとごめんて」

「みゃ」

許してやろうと言わんばかりのハッキリとした返答で一安心した。


 部屋に帰ってなんとなく勉強机の前にある椅子に座った秋は、縦読みの告白をいつしたかを思い出そうとしていた。

ただ、さすがに具体的な日付が分からずに結局疲れてしまった秋はベットで横になって眠ることにした。

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