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里の香りが有(す)る人  作者: みつ


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第6話 ファミリーレストランマリーア


 常連であるファミリーレストランマリーアに着いた彼、岩地(いわち)(あき)は中途半端な時間もあってか閑散(かんさん)としている様子の店を外から眺めていた。

店外からは押し扉であるため押して入店した。

すると、顔馴染みのあるオネエ店員が、秋の元にやってくると2人席に案内された。

いつも頼んでいるメニューがあるため、席に座ると同時に注文をした。

「いつものでお願いします」

「かしこまぁりまぁしたぁ〜」

このオネエ店員は独特な感じで喋る。


 普通ならストレートな発音での接客になる所を、あえてなのかイントネーションを変えていて癖になる人だ。

この人がいるからいつの間にか常連になっていた。

10分もしたら料理をオネエ店員が運んできた。

「おまぁたせしまぁした〜。パンチェッタとサラミの2種ピザです〜」

「ありがとうございます」

「ごゆっくりしてくださぁい〜」

オネエ店員は言い終わると颯爽と歩いていく。

その姿がまた良い。


 いつも通りのピザ。

これもまたいい、しかも時間跳躍(タイムリープ)前ではこのメニューは存在しない。

だからこそ、この当たり前にある味が無くなってしまうのを毎度のこと、1切れずつ噛み締める思いで食べていた。


 最後の1切れを食べてスマホを見ると通知が来ていた。

それは片重(かたおも)いの相手である、(ゆう)里香(りか)からだ。

(今日、だったのか……)



━━スマホのやりとり━━


りか:岩地ー

りか:今なにしてるー?


  あき:今暇してるよー

  あき:どうしてー?


りか:なんとなく聞いたー笑

りか:てことは家?


  あき:いやー塾通ってるからね

  あき:外いるー

  あき:言うてまだ時間まで結構あるけどねー


りか:えらいね! 笑

りか:どんくらい時間あるんー?


  あき:今から3時間後くらいかなー

  あき:めちゃ暇で寂しいわー笑


りか:なんなら今から行こうかな笑


  あき:え! まじ! うれしい笑


りか:ちなみに場所どこなのー?


  あき:清正公(せいしょうこう)駅ってとこのマリーア!


りか:まじ!

りか:わたしの実家の最寄りや笑

りか:なんなら普通に行ったことある笑

りか:今本武尊(ほんたける)駅やから40分くらいで着く!


  あき:え! (ゆう)さんの実家の近くなの!

  あき:やばすぎ!

  あき:やった! ありがとーう


━━━━━━━━━━━━



 やり取りを終えてブレザーの左胸ポケットにスマホをしまった。

両手を広げて見ると汗をかいていた。

手に汗握っている状態で、座っていた長椅子のクッションに()れると考えられないほど濡れていた。

緊張しいな秋だがここまでは珍しい。

(経験してるから……いける……はず)


 1周目の時(ファーストタイム)、彼は色々なやらかしをしてしまった。

まだ時間があることを利用しようと考えた秋は、その1周目の時に彼がやらかしたことを鮮明に思い出して改変していく所を頭で練った。

ある程度練っていた所で侑からの連絡で残りわずかなのを理解した。

秋は慌てて元々座っていた長椅子からラタン()みで4足の背もたれ付きの椅子に移動した。

本当に近くに居たのが分かるくらい速く侑は着いていた。

(あぶなかった)


 オネエ店員が、侑をこちらの席まで案内してきて秋に目配せをしながら接客をした。

「ごゆっくりどうぞ〜」

秋が先程まで座っていて汗がまだ完全には気化しきっていない長椅子に、侑がスカートの裾を引き寄せながらゆっくりと座った。


 何か話そうとしていたが見惚れてしまって頭の中が真っ白になってしまっていたが、逆に丁度良かった。

侑はメニューに目を通して何を食べるか決めていたからだ。

すると、メニューを閉じた。

「ねえねえ、岩地?」

「どうしたの?」

「岩地は何食べた?」

「俺はピザ食べたけど、どして?」

「やっぱり食べたのねえ」

「連絡来た時には食べ終わってたんだよね。決められないの?」


 1周目の時、彼はこんな気の利いたでも少し攻めてる返しは出来無かったはずだ。

「いやあそうなんだよね」

(よかったぁ)

「ピザは普段食べない?」

「ほぼ食べないかなあ」

「嫌いじゃないんならピザ良いと思うよ」

「じゃあ折角だしそうしようかなあ」

「任せて! 確か結構食べれるよね?」

「え、う、うん」

まだ、一緒にご飯を食べたことが無いのにこの質問は間違えたけど、流すような勢いでオカマ店員を呼び付けて追加注文をした。

「ご注文はお決まぁりですかぁ〜?」

「パンチェッタとサラミの2種ピザを1つとマルゲリータピザでお願いします」

「かしこまぁりまぁしたぁ〜」


 オネエ店員は空気を読むかのように颯爽と視界から消えていった。

「勝手に頼んだけど大丈夫だった?」

「うん! 全然大丈夫だよお」

「それなら良かった! 美味しいからねー」

「あのお、2種ピザ? みたいなの良く噛まないで言えたよねえ」

「いつも頼んでるやつだから! マルゲリータピザは違うけどね」

「そういう事ね! マルゲはなんで頼んだの?」

「なんか、シンプルで良いかなって感じの浅い理由だよ。てかマルゲて略すのおもろい」

「ほんとに浅いねえ。なかなか良いでしょ!」

(やっぱり話しやすいな……)

「なかなか良い! ちなみにあれで足りそう?」

「んー食べてみないと分かんないけど多分!」

「多分! っね」


 そんな会話をしているとオネエ店員が料理を運んできた。

「おまぁたせいたしまぁした〜。パンチェッタとサラミの2種ピザとマルゲリータピザです〜」

侑が先に感謝を述べた。

「ありがとうございます」

続けるようにでも、被らないように秋も感謝を述べた。

「ありがとうございます」

「それでは、ごゆっくり〜」


 オネエ店員は当たり前のように先程と同様な行動を取った。

少し良い所を見せるべきか悩んだ秋は結局やめた。

1周目の時、彼だったらこの局面でおそらくピザを2枚とも8等分に切って渡していただろう。

人によっては、食べ方が違ったりするだろうと思った秋はそこに気を効かせた。

結果的に、侑は8等分に切っていたために少し後悔をしたが気にし過ぎないようにした。

それ所か2枚分のピザを切った上で、1切れずつだけ小皿に取り分けをしていた。

「食べるでしょ?」

「う、うん! ありがとう」

侑は当然のように手を合わせて食前の挨拶をしていた。

「いただきます」

合わせるように慣れないさまで手を合わせた。

「いただきます」


 侑は合計14切れをものの数分で平らげた。

華奢(きゃしゃ)な姿とは裏腹にそこそこ満足そうな表情を見てひと安心しながらも、足りているのか心配になった秋は質問した。

「足りた?」

「うん! ちょうどいい感じ!」

(あーこれ足りてないんだろうな……)

「そかそか」

「岩地は、2種ピザが好きなんだよねえ?」

「そうだよう。侑さんの口に合わなかった?」

「いや、肉食やなあておもてね」

「そら男やからね」

「肉食系男子や!」

(このやり取りは……!)


 この辺りで恋愛の話になっていくはずだから、変に意識をしすぎず舵を切ろうと考えていた所だ。

「そんなこと言ったら侑さんだって! 肉食系女子やん!」

「いやっ! わたしはそんなんじゃないよお」

「どんな反応なのそれは!」

「中学の時はそれなりには付き合った人、居たけどもう付き合えないよお」


 この後だと思う。

1周目の時、彼は友達として侑を見ていたがためにその後の展開を考えると気持ち悪いことを言ってしまっていた。

「えーと。そうは言っても! 分からんよ!」

少し棒読み風な感じになってしまったが、とりあえずは(まぬが)れたからひと安心だ。

「そうは言ってもって! じゃあ岩地は好きな人居るの?」


 想定外の切り返しだ。

確かに記憶の中では彼が気になる人の話をしたのはあったが、もっと遅いタイミングだったはずだ。

この時、秋はあることに気づいた。

1つ改変を大きくし始めるとその後のことがどんどん変わっていき、しまいには対応出来なくなる。

記憶が役に立たなくなり予想だにしないことが今後起こりうるのではないかと、悪い想像をしてしまいだいぶ動揺している様子に陥った。

「え、い、居ないよ」

「ほんとうに?」

「うん。本当に」

「ほんとうの! ほんとうの! ほんとうに?」

「本当だよう」

(絶対にここじゃない)

確信を持った上で秋は口を滑らせないように気をつけた。


 ちょうどいい所でオネエ店員が、まるで秋にフォローを入れるかのように割り込んできた。

「あ、お皿お下げしまぁすね〜」

手に持っているお盆に皿を乗せていった。

「それでは、ごゆっくり〜」

そして目配せを秋に向かってして、今度は心配そうな足運びで去っていった。


 少し間を置いて頃合いだと思った秋は、立ち上がった。

「ちょっとトイレ行ってくるね」

「うん。分かった」

これはただの口実だ。


 1周目の時、彼はスマートな会計を出来なかった。

侑が見てる所で小銭は落とすわ、焦りすぎて落とした小銭を上手く拾えないわで、最悪の会計の瞬間だった。

それが記憶に残っていた秋は、考えた。

その結果、侑の気づかない所。

つまりは、トイレに行くフリで会計を済ませれば良いんだと思い付いた。

ただ問題は、伝票だ。

伝票を持ってトイレに行く人はなかなか居ない。

そこで、あのオネエ店員だ。

オネエ店員と事前に打ち合わせをしておいた。

だから侑は自然と席案内をされた訳だ。

ちなみにこの席はレジがたまたま見えない場所だったために変えなかった。

そして伝票も持ってこないでもらった。

絶対に支払いをするからと言う、ある種の常連としての信頼で成立した。


 支払いをしにレジに向かうとオネエ店員と目が合って足早に会計を済ませて貰えた。

そして秋がひと言、感謝を言った。

「今日は、ありがとうございました」

「いえいえ、お客様たちが楽しんでいる様子でこちらまで幸せになりました」

「嬉しいお言葉です! ご馳走様でした!」


 こうして大人っぽいことをして満足気で上機嫌な秋は侑の待つ席に向かった。

「ただいまあ」

「おかえり〜」

「そろそろ時間だから行こうか」

当然のようにマリーアを後にしようとする背中を侑が引き留めた。

「お会計は? 無銭飲食になっちゃう……」

「もうしてあるよ」

証拠のレシートを見せて侑は不思議そうな表情を浮かべていた。

「どう、やって……? 伝票来てないのに」

「まあまあ細かいことはいいから。ご馳走様でしたー」

合わせるように侑もお店にひと言。

「ご馳走様でした?」

マリーアのドアが店内からは引き扉だったのを忘れていた秋は思いっきり押してしまい、完璧な終わり方は出来なかった。

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