第12話 カレーのシミ
しばらくして期末テストと終業式を終えて天翔高校は夏休みに入り帰宅部の彼、岩地秋は部活に明け暮れる訳も無くただの日常を過ごしていた。
片重いの相手である、侑里香はダンス部に所属しているため毎日忙しそうなのがスマホのやり取りからも感じ取れた。
━━スマホのやり取り━━
あき:夏休み暇すぎて1週間長すぎる
あき:学校あった方がいいわー
りか:私は部活で1週間めちゃ早い
りか:宿題まともにやれてないし
あき:あーそんなのあったなー
あき:やる気出ない笑
りか:それはわかる笑
あき:それで言うと侑は偉い!
あき:笑笑
りか:そうでもないよ笑
りか:そろそろぶかつ始まるー
あき:がんばれ!
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そんなある日、秋を含めて古友である4人組のうちの1人が秋の実家に長期滞在していた。
この3人は、いわゆる小学校の時から仲良くしている友達で、秋にとって特別な存在の人達だ。
そして秋が仲良くしてきた友達の中で1番古い友達に位置している。
その1人が夏休みに入ってから岩地家に長期滞在していた。
いや、もはや住んでいたと言っても過言ではないそんな古友の名前は釣瓶大造だ。
どうして住んでいたのかと言うとかなり遠い地方に引越しをして、夏休みの時期は親元を離れて大造だけ戻ってきていたからだ。
そこで、岩地家が頼りの場となっていた。
ただ、岩地家は秋の友達で溢れかえることがざらにあったし、泊まりに来ることも多かった。
当然、大造も泊まったことがあり抵抗感もなく大造の親にも一定の信頼を得ていたから預かれた。
秋は夏休みだろうと関係なく、毎朝のルーティーンである祖父のちっくんは毎日行っている。
それは大造が住んでいようと関係ない。
大造がまだ寝ている朝のタイミングで、秋は1人で起きて実家にある表玄関の鍵を開けて扉を押した。
時間があるからいつもみたいに石のタイルを蹴り上げるのではなく、1歩ずつ丁寧に踏みながら祖父母の家に向かった。
祖父母の家にある玄関を開けると祖母の姿が無かった。
一旦、ちっくんの準備をしながら窓から外を見渡していると祖母の姿があり庭にある畑で作業をしていた。
ちっくんの準備を終えて祖父の元に向かって挨拶をした。
「おはよう。じいちゃん」
「おはよう」
いつもの如く数値をメモに取った。
「終わったよ。じゃあね」
「ありがとう」
祖父の声を聞いてから秋は祖母の元に向かった。
「ばあちゃん。おはよう。じいちゃんもう終わったからね」
「あっくん。おはよう。分かったよ」
「あんまり、やり過ぎないんだよ」
「分かってるよ」
「じゃあねぇ」
「うん。じゃあね」
秋は実家に戻ると直ぐに、階段に足をのばして1段飛ばしで上った。
自分の部屋にある扉のドアノブに手を掛けた時。
ケージの中にいるみゃー子が起き上がって、秋の方を物欲しそうな目で見ていた。
「みゃぁー」
「はいはい。ごはんねえ」
「みゃっ」
みゃー子はごはんの催促が毎食の如く上手い。
家族内での、みゃー子にご飯をあげる担当が曖昧なために回数が多くなってしまうことがかなりあった。
「今朝は食べてるな」
「みゃあ」
「そんなに甘えても朝飯は出てこないぞ」
「みゃっ」
みゃー子は拗ねて尻尾を秋に向けてきた。
「食べ過ぎなんよ」
拗ねているみゃー子に向かって刺しにいく言葉を投げかけて、追い討ちを掛けた秋は自分の部屋に戻った。
まだ朝の8時にもなっていない時間だが関係なく大造のことを当然の如く秋は起こしにかかった。
「大造、起きろー! 朝だぞー」
「眠いだろ、まださすがに」
「関係ない! 起きろ!」
「どうして?」
「なんとなく!」
「なら寝かせろって、あと1時間は許して」
「じゃあ、1時間な」
結局、1時間また1時間と時間は流れていき大造は昼ごはんの時間まで寝ていた。
階段を1段1段、丁寧に上る音がした。
秋は階段の足音で家族の誰なのか判別できるため焦って大造に声を掛けた。
「おい! 起きろ!」
「……え?」
「おや来た!」
秋は普段、友達と話している時に岩地母の話題を出す時に‘‘おかあさん’’とは呼ばずに‘‘おや’’と呼んでいる。
岩地父の場合は基本的に決まった呼び方があり、‘‘とうちゃん’’と秋は呼んでいる。
「……まじ、か?」
「この足音は絶対そう!」
その瞬間。
ノックのひとつも無く秋の部屋にあるドアが激しめに開いた。
秋の言う通り岩地母だった。
「あんた達! いつまでちんたらしてるの! お昼ご飯の時間だよ!」
すかさず秋が反応した。
「ごめん。今から下に行く。大造も起きろよ!」
「俺は、起きてたけどね」
岩地母はそれだけ伝えると、階段を1段1段丁寧に下りていきその背中を追うように秋も下りた。
お昼ご飯はもう出来上がっている状態になっていた。
「今日はカレーにしてみたよ! 最近はそうめんとかばっかりだったからね」
「ありがとう! 上で大造と食べるわ」
「ご飯の量、適当に入れちゃうよ?」
「分かった!」
岩地母は、2人分の適当な量の白飯とカレールーを別の皿に盛り付けてトレイに乗せた。
そのトレイを持って秋は自分の部屋に戻った。
1周目の時、彼はこのトレイを転びながら手放してしまった。
幸いなことに、白飯もカレールーもほぼ零れることは無かった。
ある場所を除いて。
それは天井だった。
天井にカレールーが零れ付いてしまっていたのだ。
あまりにも有り得ない場所過ぎて、初めはどこにも零れてないと安堵していたが食べ終わったタイミングで茶色いシミが天井にあることに気付いた。
この話は、笑い話としてしばらく古友である4人組の中で話題に上がっていた。
その懐かしい記憶を思い出して秋は一瞬の迷いが生じた。
(どうするか)
狙って出来る代物では到底無かったため、やるとしたら自然にしたかった。
ただ、その心配は無用だった。
考え過ぎていた秋は、また当然のようにトレイを持ったまま転んだ。
「あ……。すまん、大造。ティッシュ取って」
同じような場所にカレールーが付いてしまって慌てて直ぐに大造から受け取ったティッシュで、拭き取ったが今回もまたシミとして残ってしまった。
だがそのシミは記憶よりもだいぶ薄かった。




