第11話 遅れたシャープペンシル
なんとなく分かっていた結果を突きつけられてしまった彼、岩地秋は意外にもあまりショックは大きくない様子で学校生活を送っていた。
理由は片重いの相手である、侑里香が秋のことを振った後は気まずさというものを隠しているのかと思わされる程に、自然な接し方の学校生活だったからだ。
1周目の時、彼も同じ経験をしている。
どう考えても気まずくなるのが普通だと思うのだが、むしろ仲良くなっているのでは無いかとすら思わされていたのをよく覚えている。
そこで侑は、底が見えないほどに深い海みたいな心の持ち主なんだなと直感的に思った。
そんな侑の優しさを決して、疑う目を持たずにいた。ある時までは。
相棒である、上野豊生と指谷駅で合流して登校していたら謎な質問をされた。
「岩地さ、最近やけに侑と仲良くね?」
「あーやっぱそう見えるのか」
「やっぱて、なんだよ、やっぱて。まさか……?」
「ん? というと?」
「わざわざ、言わせるのか?」
「だって、何が言いたいのかわかんないし」
「侑と付き合ったでしょ?」
「……え? 全然付き合ってないよ? まあ告りはしたけどね」
「告ってあの雰囲気で、付き合ってないは無理あるだろ」
「いや、まじまじ。なんなら振られた」
「パチこくなよ」
(なつかしいな)
パチこくなは誰かが、言い始めてからクラス内でかなり流行ってた言葉だったのを思い出してこうやって言えば良かったと反省しながら答えた。
「いや! まじだよ」
「本当だとしたらお前、キープされてるだけじゃね?」
「まあね。それはある。でも別にいいやん」
嘘だ。
本当は侑にとっての唯一で在りたかったが、色々な出来事を改変しても侑の気持ちまでは改変出来ないのだと悟りつつもどこかで期待をしていた。
ところでそんな秋よ、そのままでいいのかと誰かに囁かれたような気がした。
すかさず秋は声を上げた。
「良いわけ……無いだろ」
「どうした? 俺なんも言ってないよ?」
「ごめん! 俺、買い物してから学校行くわ」
「お……」
豊生が何か言っていたが秋は気にせずある所に走って向かった。
そこは天翔高校の近くに位置しているが、遠回りをしないと行けない文房具屋だった。
思い付きで来たからどうしてここを選んだのかは分からないが買う物は決めていた。
シャープペンシルだ。
記憶の中にある確かな物で縦読みの告白をした後に実家の近くにある文房具屋で買ってプレゼントした。
同じような物を探し回っていると全く同じ物が残り1つずつという状態だった。
(よかったあ……)
商品を持ってレジに向かい会計を済ませて天翔高校に向かった。
1周目の時、彼はシャープペンシルを2ヶ月遅れの誕生日プレゼントとして買った。
秋は彼の気持ちに少し共感してしまった。
プレゼントをすれば、いつか実らない物でも実っていくのではないかと。
これは正に、好きなバンドの歌詞にあるワンフレーズなんだと感じた。
「ありがとう」という感謝の思いを俺が渡しに会いに行くよ
そんなことを考えていたら学校に着いた。
1周目の時、彼はシャープペンシルを渡せはしたがタイミングを間違えてしまい渡す瞬間を同じクラスの1人に見られてしまった。
今回はそんな事故を起こさないために念入りに授業中だろうと関係なく考えていた。
2限目が終わったタイミングで3限目が家庭科室に移動する授業で、その準備をしている時に後ろから豊生が声をかけてきた。
「岩地、朝はなんだったよ」
「まあまあ。すまんな」
「いや、いいけどめちゃ走るからびっくりしたわ」
「お前のおかげで目覚めたわ」
「なんだそれ」
「思わせぶりなのもそうかもだけど試されてんだよ俺」
「侑のことか」
「そうそう! まあとりあえず行こうぜ」
「そうだな」
2人は準備を済ませて家庭科室に向かいながら話し込んでいた。
「てか、豊生の方こそどうなんだよ」
「なにが?」
「例の野球とか水野惑菜さんのことよ」
「野球はもう少し考えるよ。水野さんはなあ」
「まあ、もう少しゆっくりしてろよ。俺は彼女すぐに作るからよ」
「振られてるクセにうるせえよ」
「まあ、見とけって」
「じゃあ、どっちが先に彼女作るか勝負な」
「受けてやるよ」
「振られてるやつに負ける気しねえ」
「ぬかしとけよ」
「岩地に負けるのだけは、想像つかなすぎる」
「はいはい」
そんなやり取りをしていたら家庭科室に着いていた。
家庭科室ではエプロンを手縫いで作る授業をしていた。
秋はこの手縫いエプロンを作るのがすごく退屈な時間だった。
後ろの席にいて旧友である、橘大地と話をしていると狙っているんじゃないかと思わされるほどに速攻で家庭科の先生に怒られる。
この家庭科の先生はとにかく怒る時に真っ赤になるから林檎先生と呼んでいた。
そんな退屈な3限目が終わった。
3限目中にあることに気付いていた。
それは時間割のことで5限目に体育があることだ。
4限と5限の間に昼休憩があるが体育となると着替えがあるから女子は、別の部屋で着替えを済ませる。
そこから女子は着替えを置きに一旦教室に戻ってくる。
そして男子は教室で着替えを済ませる形になるから時間に余裕があまり無い状態になりやすい。
そして必ずと言っていいほど侑は教室にぎりぎりの時間まで留まっている。
理由は分からないが、このタイミングを上手く使えればおそらく誰にも見られずにシャープペンシルを渡せる。
そして4限が終わりとうとうその時が来た。
何とか狙い通りの状況に近付いていた。
あとは、侑が誰かと一緒に授業に向かわなければ渡しに行ける。
(たのむ……)
教室内には侑と岩地の2人きりになった。
(よしっ)
岩地はシャープペンシルの入ってる包みをポケットに入れて侑に話し掛けに行った。
「ゆ、う! ちょっといい?」
「あれ、岩地まだ行ってなかったの? てかどうした?」
「う、うん。これ! 誕生日プレゼント!」
「私に? 誕生日、2ヶ月は過ぎてるよ?」
秋は理由を考えていなかったから戸惑いながらの返事になった。
「まあ! なんとなく!」
「そっか。まあ2ヶ月過ぎても誕生日プレゼント貰えるのは嬉しい!」
「それなら良かった!」
「中身、見ていい?」
「良いよ。って言ってもすぐ分かるだろうけど」
「シャーペン2本あるね! しかも私の好きな色だ! 知ってたの?」
そう。秋は縦読みの告白での内容を思い出した時に好きな色を聞いていたからリサーチをしていなくても分かったのだ。
「たまたまだよ! どっちもいいなって選べなくて両方買ったんだ」
「なら、どっちか岩地が持っててよ! お揃いにしたかったんじゃないの?」
これは、1周目の時に起きたことがそのまま起きた。いや、わざと起こした。
この展開はどうしても欲しかったからだ。
「どっちが侑はいい?」
「岩地は、紫色使わないでしょ」
「そう、だね。じゃあ水色貰う」
不思議な感覚だ。
自分が買ってきた物を逆にプレゼントされてお揃いにした。
秋は少し感傷に浸っていると侑が教室にある時計を見ながら言った。
「そろそろ時間やばくない?」
「あ! そうだね!」
それだけ言葉を交わすと2人は体育の授業に向かった。
そして、体育の授業が終わってから6限目の教室の授業中に衝撃なことに気付いた。
それは記憶に無かった。
秋が先程渡した紫色のシャープペンシルを侑は使っていたのだ。
こんなにも幸せなことがあるのかとお揃いのシャープペンシルを、6限目の授業中に取り出して秋も使いだした。




