第10話 告白の返事
記憶に対しての不安が振り払われた彼、岩地秋はちゃんとした意味で改変できていないと思い、行動に出るべきと考えながら朝の身支度をしていた。
記憶頼りに生きすぎても狙った感が出てしまうと考えていた。
秋は身支度を済ませて毎朝のルーティーンである祖父のちっくんをしに行った。
祖父母の家は隣にあるから数秒で着く近さだが、朝はとにかく時間が無いために足早に石のタイルを蹴り上げながら向かった。
祖父母の家にある玄関を開けると祖母が、重そうな掃除機で床のホコリを吸っていたから大きめの声で挨拶をした。
「おはよう! ばあちゃん!」
「おはよう。あっくん。じいちゃん寝てるからね」
「分かったよ」
ちっくんの準備を終えると秋は祖父の元に向かって挨拶をした。
「おはよう。じいちゃん」
「おはよう」
秋は慣れた手つきでちっくんを終わらせると素早く数値のメモを取った。
「終わったよ。じゃあね」
「おう、ありがとう。じゃあな。気を付けろよ」
祖父の声を最後まで聞いた所で実家に戻っていつも通り岩地母が、エンジンをかけて待つ車の元に向かった。
朝の食欲が無くなってきていた秋は、ここ数日は早弁のためにおにぎりを追加でお昼のお弁当と同時に作ってもらっていた。
広幡駅までは岩地母による心配の時間だ。
1周目の時、彼にも岩地母からこんな事をされていた。
中学生の時に忘れ物を良くしていた秋は、高校生になっても変わらないと岩地母は確信していたのだろう。
毎朝、車の中では確実にされることだ。
「ちゃんと筆箱持った? 携帯は? 財布は? 定期入ってるよね? 靴もちゃんとローファーだね?」
「全部、持ってる」
確認せずに秋は言った。
それもそのはず毎朝のお決まりのやり取りに疲れていた。
「ちゃんと確認した?」
「したした」
「忘れ物あっても知らないからね」
「わかってる」
広幡駅でいつも降りている場所に岩地母が車を横付けした時に恒例の如く声を掛けてきた。
「行ってらっしゃい! 気を付けてね」
「はいはい」
秋は返事をすると車のドアを開けてゆっくりと閉めた。
ホームへと向かい、いつも通りの時間の電車に乗り込めた秋はある行動に出ることを決心した。
それは、告白だ。
1周目の時、彼は縦読みの告白をしたが返事を聞くことは一生、来なかった。
だからこそ当たって砕けろの勢いで思い切ることにした。
ただ、どうしてもサプライズ風なことをしたかった秋は1つ思い出した。
片重いの相手である、侑里香と登校したいがために1周目の時、彼はわざわざ指谷駅から学校までを遠回りして登校していた。
その記憶を利用すれば侑と登校出来ると睨んだ。
指谷駅に着いてから本武尊駅の改札口まで徒歩で10分程はかかる。
普段なら学校に着いている時間だが気にせずに侑が来るの待っていた。
ここで不自然にならないような言い訳を考えていた。
会わなかっただけで本武尊駅から毎日、登下校をしていたことにするのが思い付いた。
だか、下手な嘘を付いても後から見抜かれる可能性があるから違うのを考えた。
その結果、寝過ごしていつもとは違う本武尊駅で降りたことにした。
しばらく待っていると眠そうに目を擦りながら歩いている侑の姿があった。
待っていたのがバレないように侑が、改札口を通ってから少し時間を置いて背後から声を掛けた。
「ゆ……う、おはよう。眠そうだね」
「岩地や、おはよぉ。眠いよほんとにぃ。てかまだ慣れないのね?」
(なさけない……)
さん付けで呼びすぎてまだ自信を持って呼び捨てに出来ずにいたが、溜息をついた次の日から呼び捨て宣言をした上で不慣れながらに頑張っていた。
「いやあ、未だにさん付けしそう」
「まあ慣れだねぇ」
「そうだね」
意外と自然に喋っているが、侑からどうして本武尊駅に居るのか質問されそうだと思っていて拍子抜けしていた。
「そう言えば、岩地って本武尊からなの?」
(きたきた)
「いや、今日はたまたまだよ」
「そうなのね。どして?」
「寝過ごしちゃって本武尊駅からのが近くなったからなんだよね」
「んなるほど」
理解して貰えた様子だった。
「ちなみに、侑はいつもこの時間?」
「日によるんだけど、もう少し遅い時もある」
「あー朝弱いんだねえ」
当然、朝弱いことは記憶に残っていて知っている事だがあえての話題だった。
「岩地は?」
「俺はどんなに遅くてもこの時間には学校着いてるかな」
「私と比べるとだいぶ早いねえ」
「一応そうなんだよねえ」
「じゃあ、そもそも駅も違うから今後なかなか朝は会わなそう」
「いやあ確かに?」
「せっかくだからゆっくり行こ」
「そうだね。ゆっくり行こう」
本武尊駅から天翔高校の裏門までは徒歩で5分程で着いた。
道中は無言の時間になっていたが、心地好すぎたがために話す空気にならなかった。
裏門から入っていく時。
周りには誰も居ないことを確認した上で1歩先を歩いていた侑に声を掛けた。
(……ここしかない)
「侑! ちょっと止まって!」
「う、うん?」
立ち止まって侑は秋の方に振り向いた。
「初めて喋ってから1ヶ月くらい経ったけど、徐々に侑のこと気になってさ。それで……。
それで侑のこと好きになったから付き合って欲しい!」
「……ありがとう。でも、ごめんね。好きなひ……」
掻き消すように秋は割り込んでしまった。
それ以上言われたく無かったからだ。
「そっか。いや! 急でごめんね!」
「ううん。ほんとに気持ちは嬉しい! 良かったらさお互いが89歳になってもまだ生きていたら!」
どうして、89歳なのか分からなかった。
でも、何故だか分からないけど嬉しくて冗談なのかすら分からないのに変なテンションで秋は答えた。
「そう! だよね!」
今回は1周目の時に彼が経験したことよりも良い方面に迎えたのは確実だ。
ある種振られることが出来たのだから。




