第13話 思い出深い場所
夏休みを満喫していた彼、岩地秋は中学生の時に所属していた部活であるサッカー部の同級生全員と燦々と照っている太陽の下プールに行っていた。
サッカー部の同級生は秋を含めて8人で構成されていた。
つまり、後輩を3人足してやっと試合が出来るような少なさだった。
その中に別の高校に入学したことで、天翔高校に通うだけでは会えない特別な存在が2人居た。
秋はこの2人のことをかなり気に入っていた。
周りがプールで楽しそうに泳いでいる中、秋は泳ぐと言うよりも水の流れに逆らわずにただ背中に水の勢いを感じながら直立して歩くだけだった。
昔から肌が弱かった秋は、海はおろかプールに入ることすらほとんど無かった。
だから水に顔を付けて手と足を器用に動かしている自分の姿が、想像つかずに育ってしまった。
秋を除いたサッカー部の同級生全員はプールで満足のいくまでに泳いだりして遊んでいた。
その輪に無理してまで入る気が無かった秋は楽しめる局面以外は1人で居るようにした。
それでもあっという間に時間は過ぎていき気付いたら全員の帰宅する時間になっていた。
全員の帰宅する電車の方向としては、一緒だが色んなところから集まっているので乗り換え駅が来れば来るだけ散り散りになった。
1周目の時、彼はここで気に入っていた2人と語りたいが為に付いていく形を取って遠回りをして、結果的に面倒なことになってしまった。
それでも全員と散り散りになる中、秋は気に入っていた2人と一緒の路線に乗ることにした。
そう。面倒なことを望んだのだ。
10分ほど、駅数で言えば3駅行った広幡塩浜駅で秋は満足して降りた。
そして、改札口からも出た。
しかし、これは1周目の時と全く同じ行動だった。
1周目の時、彼は‘‘広幡’’と書いてある駅名なのもあって調べること無く、感覚で実家までの距離が近いと勘違いをしたまま改札口を出てしまった。
彼は改札口を出てからスマホで実家まで徒歩でどのくらいの時間を要するか調べた。
画面中央に表示された1時間48分という数字を見て改札口に入り直そうと彼はしたが残高不足で当然のように門前払いを食らった。
焦った彼はもう1度スマホを立ち上げようとしたが夏の暑さで充電の減りが早すぎて充電が全く無かった。
仕方なく彼は広幡塩浜駅から実家までの土地勘が無くても一瞬だけ見たスマホに表示された画面の記憶を頼りになんとか徒歩で帰れた。
秋は1周目の時、どうしてスマホの充電が無くなったのかを理解していたから、広幡塩浜駅に着いてからも普通にスマホを使えた。
抜け目を感じさせないようで現金に関しては、記憶の隅にも置けてなく紙の札1枚も無ければ小銭もほとんど無かった。
(まあどうせ……歩くし)
そうして記憶通りの動きでスマホを必要とすらしないで秋は歩き始めていた。
ふと、振り返ると広幡塩浜駅の位置が把握出来ないくらい歩いていた。
そして、目の前には小さな橋が視野に入った。
記憶を辿ると、鮮明に情景が飛び込んでくる。
その小さな橋から大きな橋という順に1つずつ超えた後、川沿いを歩いて行くと実家へと繋がる道となっていた。
大きな橋を超えた先にはある場所があった。
そう。思い出深い場所だ。
どうして思い出深い場所なのか。
ただ、ひたすらに歩いて来た橋。
ただ、ひたすらに進んでいく時間。
ただ、ひたすらに沈まんとする夕日。
色々な喧騒に包まれる中で秋がただひたすらに、みてかんじおもってきたもの、その全てが集約されていたのだ。
そこで実家までの道が長い中、テトラポット付近で1人黄昏ながら秋は片重いの相手である、侑里香とスマホのやり取りをしていた。
──スマホのやり取り──
あき:今日めちゃ暑いよねー
りか:いやーそれね!
りか:プール行ってたから余計!
あき:え! 俺も今日行ってた!
あき:プール!
りか:たまたま同じ日やったんやねー
あき:今歩いて帰ってる笑
りか:近くにプールあるのいいねー
あき:ないない笑
あき:電車で40分くらいかかる笑
りか:そっから歩いてるの?
りか:すごいね笑
あき:いや! 違うよ笑
あき:家の最寄りぽいとこから!
あき:てか夏休みどっかで会いたいな
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勢いで送ってしまい怖くなってスマホの電源を落として、我に返った秋は実家に向かって川沿いを歩き始めた。
川沿いを曲がることなくずっと歩いて行くとやっと実家が見えてきた。
同時に秋を含めて古友である4人組のうちの1人である、森田逞一の実家も視界に入った。
逞一とは実家の距離が近いが故に、幼少期から切っても切れないような縁が2人の中には存在していた。
(おめでとうな)
秋は心の中でなぜか本人も居ない中、森田家に祝いの手向けをした。
そうして実家の近くまで歩いてきた秋の視野に急いで自転車を漕いでる逞一の姿が映った。
(めちゃ若いな)
逞一と目が合い秋に気づいた様子で自転車をゆっくりと減速させながら秋の元で止まった。
すかさず秋から声を掛けた。
「おう! 逞一、久しぶり」
「あき。お久やな」
「何帰り?」
「部活帰りって感じ」
「あーそうなんや。大造居るけど少し上がってく?」
「まじか! でもすぐ帰らないとだからなあ」
こういう時の逞一はやんわりと断っていることがほとんどなのを、秋は理解していて引き止めるようなことはしなかった。
「まあ、今回長めにいるらしいからまた連絡するわ」
「分かった! じゃあ、大造によろしく言っといて」
「おう! じゃ!」
ほんの数秒間でのやり取りだったが、いくら実家同士の距離が近いとはいえ逞一と顔を合わせること自体、時間跳躍後で考えると初だった。
だからこそ逞一の顔が若いことにどこか不思議な感覚を持ちながらも、軽くなった足で石のタイルを蹴り上げながら実家の表玄関に向かった。
秋は表玄関の扉をゆっくりと開けた。
すると古友である、釣瓶大造がたまたま階段を上ろうとしていた。
「大造? 下で何やってたの?」
「あきママと喋ってた。お前、帰ってくるの遅いな」
「そう?」
「だって外、暗いやん」
「あー暗くなる前にはとか言ってたか。すまんね」
「そうそう。そのことであきママ、っばいよ」
「そんなに怒ってるのか。とりあえず俺の部屋行こう」
このまま喋っていると岩地母に怒られそうなことを察した秋は、逃げるように部屋へと入って行った。
急ぎ足で部屋に入ったために、みゃー子の様子を伺って戯れることは出来なかった。
部屋の中に入ると突っ込まれるように大造が声を上げた。
「あきの皮膚、やばいけど大丈夫?」
「これなあ。めちゃめくれるんだよね」
全身、日焼けで皮がめくれてしまっているのを当然のように剥がしながら秋は返答していた。
この全身の皮膚がめくれていること自体が記憶の中では最初で最後だったのを思い出して今日、起きた出来事を一生忘れることは無いと再確認した。
そして、共に最悪と認識していた1年は実はそこまで最悪ではなかったのではないかと俯瞰していた。




